第15話討伐隊動く

「ここから、どこに敵がいるかはわからん。白魔力が使えるものは、警戒を強めてくれ。ドラゴンは、上からもやってくる可能性がある」

 わしが率いる討伐隊は、ドラゴンの目撃された場所に到達していた。

 キャラバン隊が先日、襲われた場所でもある。

 森の木々は焼け焦げている。


 ギルドマスターは、冒険者に招集をかけて、所属員の中でも最精鋭であるC級以上の者を中心に総勢50名の討伐隊を組織した。わしの正式な身分は、一応はまだ、伏せられている。だが、情報を隠したままでは、プライドが高い冒険者たちは従わないので、元・A級冒険者でかつ、かつてドラゴン狩りに参加したことがあると、やや表現を抑えて皆には伝えた。


「やっぱり、ジーク師匠はすごい人だったんだ」

 ブレアは、目を輝かせていた。

 

「俺が見込んだだけはあるぜ、さすがジーク。でも、水くさいな。どうして、今まで黙っていたんだよ」

 シグルドは、ちょっとだけ不思議がっていた。

 わしは「詳しい話は、後日に」と言って、今はドラゴン狩りに集中することにしている。


 正直に言えば、このメンバーだけでドラゴン討伐に成功するのは至難の技だろう。もしもの時は、わしが刺し違える覚悟は持っている。


「ふん、元・A級とはいえ、なんでギルドの受付係に従わなければいけないんだ? 俺たちは、好きにやらせてもらうからな」

 そう言うと、3人の冒険者たちは、集団から離れて独自に動こうとしていた。


「待て、単独行動では、狙い撃ちにされるぞ」


「はぁ、ドラゴンなんて、しょせんモンスターだろう。俺たちが負けるわけがねぇ」

 だが、嫌な予感というものは当たる。

 

 わしたちの頭上に、大きな翼の音が聞こえた。空気を斬るかのような音と、威圧感に圧倒される。

 やはり、レッドドラゴンか。ドラゴン族の中では、比較的に組みやすい敵だ。

 だが、それはドラゴン族の中だけで相対的にという意味で、災害クラスの脅威であることには変わらない。


「みんな、まだ、攻撃はするんじゃないぞ。隊列を組みなおす。魔法職の者たちは、後方に下がれ」

 多くの者たちは、わしの指示に従ったが、あの3人の冒険者はそうではなかった。


「臆病者たちめ!! 俺たちが先にやっちまおうぜ」

 仲間のひとりの黒魔術師が攻撃を始める。そして、グループのリーダーらしき男は、軽やかな動きで枝を足場にして、ドラゴンに近づいて行った。


 仕方がない。奴らには時間稼ぎになってもらおう。もう、助けることはできない。


 黒魔術師が放った火球は、ドラゴンの腕に簡単に弾き飛ばされてしまい、反射して自分たちに襲いかかる。


「ぎゃあああぁぁぁぁぁぁあああああああ」

 瞬く間に、言うことを聞かない冒険者の2人は、火に包まれた。


「くそ、こうなったら俺が斬り刻んでやる」

 空中の男は、そう意気込むが……


 上空にいる敵の方が優位なのは、間違いない。それも、相手はドラゴン族。

 敵の皮膚を貫こうとした剣は、ドラゴンの厚い皮膚に負けて、粉々になってしまう。そして、鋭い爪が、絶望していた剣士に向かう。人間とは思えないほどの絶叫が響き渡る。剣士は、無惨にも斬り刻まれて、地面へと落下した。


 ※


「隊列を維持しろ。きちんと行動すれば、被害は最小限で済む」

 わしは、大きな声で指示を出す。ドラゴンとの戦いは、持久戦になる。しっかり、組織的な戦いを行わなければ、じり貧になる。


「まずは、前衛に補助魔力を!! 打ち合わせ通りに守備力増強を優先しろ」

 ドラゴンの攻撃力は非常に高い。前衛はダメージを担当するため、守備力を上げなければ、いつかは回復が追い付かなくなる。まずは、自陣の状況を整えなければ、勝利はおぼつかない。


 さらに、さっきの独断専行した3人の冒険者を見てもらえばわかると思うが、ドラゴンとの戦闘で下手な攻撃をすれば、そのまま死につながる。守りながら、チャンスを待つのだ。


 ドラゴンの尻尾と爪の攻撃は、盾役たちが献身的に受け止めてくれた。あとは、注意すべきことは……


「息を吸い込んだ!! ブレス攻撃が来るぞ。神官たちは、加護魔力の準備を!」

 白魔力を使える者たちが、協力して幾重にも結界を作り出す。ギリギリのところで耐えきった。


『すごい、完璧な指示だ』

『俺たち、災害相手に戦えている』

『なんで、あんなにすごい人がギルドの受付係をやっているんだよ』

 

 討伐隊も緊張から解放されて、少しずつ恐怖感が薄らいでいるようだ。

 だが、勝負はここからだ。


「魔力隊は、余裕がある者から、幻術や呪術を使って、あいつの力を弱めるんだ!」

 ドラゴンには、補助魔力はほとんど効果がない。だが、数の力でかけまくれば、着実に力を弱めることができる。


「ジークさん、すごい老獪ろうかいな戦い方だわ」

 ミリアは、戦術理解力が高い。わしの考え方を瞬時に理解してくれたんだろう。やはり、彼女になら任せられるな。


「ミリア君。だいたいの基本的な戦い方は、わかったか?」


「はい。こちらの守備力をあげて、自陣を整備した後、ゆっくりとドラゴンの動きを締め上げていく。そして、ドラゴンの動きが緩慢になったら、こちらがカウンターでとどめを刺す」


「正解だ。ならば、任せられるな」


「えっ!?」


「こちらのチームで、ドラゴンに攻撃が通るのは、わしとおそらく、ブレアだけだ。どうしても、わしは指揮を離れなくてはいけなくなる。合図を出した後、わしはドラゴンに向かって突撃するから、その際は、ミリア君が指揮を引き継いでほしい」


「ですが、私は……」


「キミ以外に任せることはできない。信じている」


「わ、わかりました」


 これですべてのピースは整い始めた。あとは、チャンスをつかむだけだ。

 だが、これは油断だったのかもしれない。


 ドラゴンは、自分の攻撃が通らないことにイラ立ち始めて、我々を分断しようと画策していたようだ。尻尾で周囲の木々を倒して、翼で強風を発生させる。倒れた木々は、強風にのってこちらに襲いかかるようになり、隊列は完全に乱れた。


「しまった。みんな、再集結を!!」


 わしが指示しようとした瞬間、ドラゴンはブレスを吐き出した。神官たちは、結界を作ろうとしたが、隊列が乱れたため効果が薄くなる。威力は減退したものの、大きな爆発によって、我々は吹き飛ばされた。


 全滅という言葉が、頭をよぎった。

 しかし、その瞬間、一つの奇跡が降ってきた。


『これより、我々は彼らを援護する。魔力弓隊、前に……撃てぇー』

 密集した弓矢の攻撃が、ドラゴンに向かって行った。

 先端には爆発魔力が込められていて、ドラゴンの体に当たった瞬間に爆発が発生する。そのため、強靭な体で、弾き飛ばすこともできない。


『マッシリア王国軍の魔力騎兵隊だ!』

『援軍が来てくれたぞ』

『やった!!』

 仲間たちは、歓喜の声をあげた。


 後ろを振り返ると、かつての騎士団の後輩で、シェーラ地方総監に左遷されていたベルス将軍が率いる魔力騎兵隊だった。


「閣下、ご無事ですか。あなたに手紙をもらった時は驚きましたが、間に合ってよかった」

 長年、背中を任せていた部下は、豪快に笑う。実は内々で、信用できるベルス将軍に手紙を出して、援護を求めていた。だが、これに応えるということは、彼の軍隊内での立場は危うくなる。


「なぜ」


「あなたが呼んでおいて、なぜはないでしょう? かつての恩師が助けを求めている時に手を差し伸べない恩知らずではありませんよ。我々は、軍を辞めて冒険者に転職しました。もちろん、皆、自分の意思でここにいます」

 かつての部下たちは、満面の笑みでうなずいていた。少しだけ、目頭が熱くなる。


 魔力弓の攻撃でダメージを負ったドラゴンは、防御力や耐性が弱まる。ここが狙い目だな。


「魔力隊、今がチャンスだ。ドラゴンの動きを拘束しろ!」

 わしの声と思わぬ援軍によって、冒険者たちは一気に息を吹き返した。

 ドラゴンは確実に、動きを鈍らせていった。


 チャンスはここしかない。


「ミリア君、後は頼んだぞ。ブレア、ついて来い。我らはドラゴンを叩くっ!」

 わしは弟子と共に、ドラゴンに向かって突撃した。

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