第14話ドラゴン対策会議

 セシル嬢に挨拶をして、いつものように仕事を終えようとしたところ、珍しくルイがギルドに顔を出していた。


「珍しいですね、マスターがここに来るなんて?」

 セシル嬢は、いつもの明るい笑顔で出迎える。


「終わり際に申し訳ないんだけど、2人残ることはできる? 大変なことが起きたわ」

 セシル嬢とは対比のように、ルイは険しい顔をしていた。なにか、あったことはよくわかる。


 わしたちは、真剣な顔で頷いた。


 ※


 3月 4日:冒険者グループが天空でレッドドラゴンのような飛翔体を目撃。

 4月 3日:生息地とはしないモンスターたちの目撃情報や被害がギルドに報告される。

 4月28日:B級モンスターの幻術師を目視で確認。ジークが討伐に成功。

 5月14日:山中にてC級クラスのモンスターの遺体を複数発見。

 6月 2日:2度目のレッドドラゴンと思われる目撃情報を確認。

 6月 3日:シェーラ山付近で、商人と護衛部隊の消息が途絶える。

 6月 4日:D級冒険者グループがシェーラ山への採取クエスト中に消息を絶つ。

 6月 5日:3日とは別のキャラバン隊が、ドラゴンのような怪物と会敵。半数が壊滅。


 ルイの報告書には、彼女が集めたドラゴンについての情報が列挙されていた。


「やはり、あの目撃証言は本物だったのか」

 わしは、空を仰ぐように言う。


「残念ながら、ここまで情報がそろえば、そう確信しなければならないでしょうね」


「軍や行政は、何と言っている?」


「シェーラの街に割ける兵力はいないと、上から通達されているみたい。私が、今回集めた情報以外も、向こうは持っているはずなのに、国王派の意見とは反対のことになるのが怖くて、握りつぶしているみたいよ。これは、内々で確認した時に、そんな情報があったわ。私のこの報告書を提出したけど、おそらく同じ運命をたどるわ」


「ひどいっ!! 実際に被害が出ても、何も動こうとしないなんて! ドラゴンなんて1国の軍隊が動かなくちゃいけない災害級モンスターですよ!!」

 セシル嬢の憤りはもっともだ。あの男は、自分のプライドと国家の重要事態を天秤にかけて、誇りを選ぶような愚か者だったとはな……


「ジーク。あなたの熟練した見識を聞きたいわ。どう思う?」

 ルイから話を振られたわしは、正直に答える。


「おそらく、ドラゴンがシェーラ山にいることは間違いないだろう。あの災害は、周囲のモンスターの生態系を破壊する。縄張りを追い出されたモンスターたちが街の方に流れ込んできているんだろう。幻術師などがその証拠だ。すでに、山のモンスターはかなりドラゴンにやられているんだろう。ついに、奴らは人間もターゲットに変えてきている。このまま、放っておくと被害はもっと増えるだろう」


 それがドラゴンの恐ろしいところだ。生態系を破壊し、凶悪なモンスターが本来存在しないはずの場所まで出現するようになり、被害が増える。だが、それはほんの序の口。ドラゴンは、周囲のあらゆるものを破壊しつくす。それが、街にまで近づいてきたら……


 最悪の状況となる。

 だが、ドラゴンの討伐は、国家が担わなくてはいけない課題だ。それがネックで、今までギルド協会側は何もできなかった。


「6月4日に、我がギルド所属員が犠牲になった可能性が高い。ならば、冒険者基本法を準用し、行方不明者の捜索という名目で討伐隊を送り込めば、こちらが主体でドラゴン討伐に動くことができるはずじゃ。国家権力は干渉できない。ギルドマスター殿には、わしからそう具申する」

 宮仕えの際に、法律をたくさん扱ったことがプラスに働いたな。そして、これはわしの覚悟を示すものでもある。


「討伐隊は、あなたに率いてもらうことになるわよ。元・S級冒険者のジークフリート様?」


 その言葉を聞いて、セシル嬢は「えっ」と小さくつぶやいて絶句した。


「そのクエストを謹んでお受けいたします」


 わしは、覚悟を固めた。この街の住民を愛するようになってしまった。だからこそ、彼らを守るために、高いリスクを取ってでも、現役に復帰する意味はある。


 大事なものを守ろうとしないで、何が伝説の英雄だ。


「え、え、え? ジークフリートって、学校でも教わるくらいの大陸戦争の伝説の英雄じゃないですか!! ジークさんが、実は伝説の英雄・ジークフリート様?? えええええぇぇぇぇぇえええええ」


 セシル嬢の絶叫は、会議室に響いた。

 

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