第12話レバーの赤ワイン煮込みと弟子の冒険
シグルドたちとは、かなり飲んでしまった。
最終的に、エールの飲み比べになってしまったが、見事にシグルドパーティー3人をダウンさせて、わしが勝利した。こんなバカなことをやったのは、王国の騎士団長よりも前の冒険者時代くらいだ。その時代のわしは、自由に満ちていた。
懐かしいな。若い奴らと酒を飲むと、その時代を思い出す。
特に、わしが何ものかもわからない状態で、慕ってくれる仲間たちは貴重な財産だ。
おもしろいな、下手をすれば半世紀ほど年齢が離れている若者たちを仲間と呼ぶことができるとは。現役を引退して、あとは死を待つだけの老人が多くいることを考えれば、こういうバカなことをできる自分は幸せ者だな。
「おかえりなさい、遅かったわね」
「ああ、ブレアとシグルドたちと酒を飲んでいたんだ」
「ずいぶん、幸せそうな顔をしているわね。よかったわ、あなたをこんな田舎街に閉じこめてしまったのではないかと、心配していたけど、楽しんでくれているのね?」
ダイニングでは、赤ワインを飲みながら、ギルドマスターは笑う。
「ああ、お主に感謝するくらいにはな?」
「面白い冗談ね」
ルイは、少し酔ってしまったようだ。いつもよりも顔が赤い。
「そうだな、だが、実際に雇い主のお主には感謝しなくてはいけないかもしれない」
「あら、何かしてくれるの?」
「厨房を借りてもいいか? 酒場の主人から、新鮮なレバーを分けてもらったんだ。二日酔い対策に、食べておきたい」
「あら、あなた、料理もできるのね?」
「軍隊生活や冒険者生活も長かったからな。料理ができなければ、キャンプで飢え死にするぞ」
「それも、そうね」
「調味料は借りるぞ」
魔力を込めて火をつける。鍋にオリーブオイルを入れて、ガーリックとジンジャーを入れてしっかり炒めた。これでレバーの臭みを消す。すでに、下処理は終わっている鳥のレバーをもらってきたから、後は簡単だ。
軽く炒めて、火を通したら、飲みかけの古い赤ワインを入れて10分くらい煮込むだけだ。
ワインと一緒にはちみつも入れて、塩で味をととのえる。これで、レバーの赤ワイン煮が完成する。昔、軍医が言っていたが、これが二日酔い防止に結構効くらしい。ワインや香味野菜のおかげで、臭みも消しやすくなり、美味しくなる。
「あら、酒飲みには最高のおつまみね。さすがは、世界の英雄。良く知っているわ」
「ただの年の功だよ」
「謙遜しなくてもいいわ。それで、そろそろ動くつもりなのでしょう?」
「ああ、かなり鍛えることができた。そろそろ、討伐クエストを受注してもいいころだろう」
「でも、ふたりはトラウマを克服できるかしら? 一度、死にそうになった冒険者の心の傷は深いわ。二度と戦えなくなる人だっているし」
「わしは、弟子たちを信じている、きっと乗り越えてくれるはずだ。それに、わしも現地でサポートする」
「なら、安心ね」
ワインを飲みながら、レバーの赤ワイン煮をパクパク食べている。こういうところも、少しずつ信頼関係を築き上げているのを感じた。
※
わしは、ブレアとミリアを伴いながら討伐クエストに来ていた。
今回受注したのは、グラン=ウルフの討伐だ。グラン=ウルフとは、狼型のモンスターで、脅威度はC級下位。採取クエストを精力的にこなしていたふたりは、昇級クエストの受注ができるまで成長している。
心配していたふたりを「大丈夫だ。いまのふたりなら、C級上位でも戦える。むしろ、安全マージンを考えすぎていると言えば、笑っていた。
S級冒険者の自分に鍛え上げられたふたりは、すでにB級下位までは対応可能となっている。これは成功体験を積み上げるための儀式のようなものだ。
グラン=ウルフは、数匹のノーマル=ウルフを伴って、集団戦を行う。
まずは、ノーマルウルフを潰して、親玉であるグラン=ウルフを狙うのがセオリーだ。ここは事前に打ち合わせしている。
「いまだ、ミリア。幻術魔力で、ウルフたちを無力化してくれ」
「わかったわ、ブレア!!」
ふたりの連携は完璧だ。敵の視界を幻術魔力で曇らせれば、打撃が中心のウルフ系モンスターはほとんど何もできない。
「一刀流・
炎を込めた剣がノーマルウルフたちを次々と無効化していく。獣型モンスターは、火に弱い。基本的だな。
「やった、あとは親玉だけよ、ブレア頑張って!!」
ブレアは、一気に敵の親玉に向かって近寄った。
※
「一撃目と二撃目は、あくまでも陽動。本命は次だ」
俺は、ジーク師匠に教えてもらった基本を何度も心で唱えて、敵に突進する。最初の攻撃は、相手の防御態勢を崩すために使い、敵の体勢が崩れた時に攻撃を叩きこむ。
だが、幻術師との戦闘で死の恐怖を覚えてしまった体は、震えていた。
その様子をすぐに感じ取ったのか、師匠は大きな声を出して俺を奮起させる。
「怖がるな、わしたちがこの1か月繰り返してきた特訓で、お主はもう別人だ。怖がるな、突っ込め。それで勝てる」
師匠の温かい言葉を聞きながら、俺は絶叫して、自分を奮い立たせる。
「うおおおぉぉぉぉおおおおおお!!! 一刀流・剛剣」
何度も基礎練習でやったところだ。もう体が覚えていた。
最初の2発の攻撃を何とかかわしたグラン=ウルフは完全に姿勢を崩している。その無防備な姿に全力の攻撃を叩きこみ、1撃で敵を沈める!!
「ぐぎゃあああぁぁぁっぁぁあああああああ」
俺の全力攻撃が、敵を絶叫させて、一撃で斬り捨てた。自分でも驚く成長だ。ほとんど、ジークさんの言うとおりにしたら、つい1か月前には勝てなかったはずの敵を簡単に倒せてしまった。
「よくやったな、ブレア。完璧な剣術だ!!」
師匠の声が聞こえる。
「すごい、やったわ。これで私達、今日からC級冒険者よ!」
最愛の人が、そう祝福してくれる。
まだ、途中のはずなのに、俺は涙をこらえることができなかった。
自分でも信じられないほど、うまくいった。これは完全に、ジークさんの教えがすべてだ。
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