第11話弟子たちとの食事

「師匠様、お礼をさせてください!!」

 特訓が終わった後、ブレアは急にそう言った。どうやら、この前のミリアを助けた時のことを言っているらしいな。


「気にしなくてよいのに」


「いえ、そんなわけにはいきません。男と男の約束です。それも相手は、ジーク師匠とですからね。きちんと、約束を果たさなければ」


「ふむ……」


「特訓の間に、採取クエストを受注していたじゃないですか。宿代は、ここの管理を請け負っているので、その分ジーク師匠にも還元したいんです。孤児院のシスターにも、お世話になった人にはなにかしらで返しなさいと言われて育ちましたから。ミリアの快気祝いも兼ねて、俺が食事くらい奢ります」


「そうか。ならばお言葉に甘えるかのう。今日はちょうどギルドの仕事も早終わりだしのう」


「やった! ミリアも楽しみにしていると言っていました。今日の受付の仕事が終わったら、ここに来てくださいね」


「ああ、わかった、わかった」

 まるで、爺と孫だな。まあ、たしかにちょうどよい年齢だが……

 妻との間に子供はできなかったが、こういう感じも悪くない。


 ※


 指定された場所は、少しだけ高い食堂だ。いつもの冒険者御用達のような、ちょっと殺伐とした感じはなく、親子連れでも安心して食事ができる雰囲気だ。


「ジークさん!!」

 ミリアが席から手を振っている。微笑ましいな、


「師匠、ここのフリカデッレは、絶品なんですよ」


「ほう、ならそれをいただこうか」

 フリカデッレとは、ひき肉とタマネギを混ぜて丸めたものを焼いたミートボールステーキのようなものだ。


「お飲み物はどうしますか?」


「ふむ、ウィスキーソーダをいただこうかな」


「珍しいですね、ジーク師匠はいつもストレートなのに」


「ストレートは、食事に合わせにくいからな。食中酒は、ワインかウィスキーソーダの方がうまい。ブレア、酒は剣術と同じでその場にあったものを飲むのが一番うまいんだぞ、おぼえておけ」

 今回は、肉料理だから、肉に負けない重厚な赤ワインか口をさっぱりできるソーダ割のどちらにしようか悩んだが……この店で使っているウィスキーの銘柄が、ソーダとの相性がいいので思わずそちらを選んでしまった。


 酒とサラダ・スープを楽しんでいると、メインディッシュのフリカデッレが運ばれてきた。

 肉汁にタマネギやガーリックなどを入れて煮込んで作るソースがかけられている。


「やった、届いた」


「ブレアったら、ジークさんの前でそんなにはしゃがないでよ。もう、恥ずかしいじゃない。ジークさん? 昨日からずっとソワソワしてたんですよ。ジーク師匠と食事ができるって!!」


「そうか、それは嬉しいな」

 ナイフでミートボールを二つに切ると、肉汁があふれていく。それがソースと絡んでいく。

 口に運ぶと、暴力的なまでの肉の旨味が口いっぱいに広がった。

 

「どうですか、ジーク師匠? 尊敬している師匠にここの肉を食べてもらいたかったんです」


「ああ、最高だな。連れてきてもらってよかったよ」

 そう言うと二人は満面の笑みで笑った。

 王都にいたときは、名誉や権力はあったかもしれないが、こんな風に純粋な人の好意を感じられることは少なかった。


 楽しいな。他者から見れば、わしはすべてを失った落伍者らくごしゃなのかもしれない。だが、王都にいてすべてを手にしていた時よりも、今の方が充実している。ブレアを鍛えていたはずだが、自分が癒されただけなのかもしれない。


 若い者たちとこうして、同じテーブルで楽しい食事ができる。この歳の老人には、それが最高の贅沢だ。


 ※


「ふたりとも気をつけて帰るんだぞ」


「「はい」」

 食堂の前で弟子たちと別れると、ルイの本宅に戻るためにゆっくりと道を歩く。さっきまで騒がしいほど楽しかった食事の場との対比で、物寂しくなる。


「あれ、ジーク爺さんじゃねぇか?」


「ああ、ホントだ。おい、ジーク!! こっちだ、こっち」


 呼び止められた方向を見ると、酒場のテラス席でシグルドたちのパーティーが酒を飲んでいた。


「珍しいな、こんな夜に!! そうだ、この前、いい仕事を教えてくれたお礼に1杯奢ってやるよ、こっち来いよ」


 シグルドからそう言われて、胸が熱くなるのものを感じた。


「では、ご相伴にあずかるかな」

 寄り道もまた一興だな。そう思いながら、酒場に向けて動き出した。

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