第6話落ちこぼれの才能発掘

 1か月ほど、ターゲットの仕事ぶりを観察した。

 セルジオ=ブレア。17歳の新人冒険者。D級下位。魔力よりも物理攻撃の方が比較的に得意なタイプ。幼馴染の女性で神官のミリアとパーティーを組んでいるが、仕事の達成率は所属員の中でも最下位。


 討伐系クエストに関しては、ほとんど成功した試しがない。

 採取系のクエストを中心になんとか食いつないでいるのが現状だ。ふたりとも孤児出身で、冒険者以外に収入を確保するのが難しいらしい。


 今日は、薬草とキノコの採取クエストに出向いて行った。


「セシル殿、では、行ってまいります」


「ええ、でも、大丈夫ですか?」


「何、元冒険者ゆえ、自分の身は自分で守れます」

 今日は、受付を休みにして、あの2人の採取クエストを遠巻きで見守ることにした。自分が引っ掛かっている違和感の正体に気づけるかもしれない。


 ※


「ブレア、今回はクエスト完了ね。早く街に帰って、ギルドで褒賞をもらいましょう」


「そうだね、ミリア。キミのおかげで、袋いっぱいに採取できたよ」


「私達、討伐とかは苦手だけど、2人で食べていける分の収入を確保できれば、それでいいわよね。孤児院の生活よりも少しマシなせいかつができればそれで」


「う、うん」

 彼女に気を使わせてしまった。できることなら、もっと良い生活をしたい。今回だって、ミリアにおんぶにだっこだった。それがどうしようもなく悔しい。


「きゃああぁぁぁぁあああああ」

 前を歩いていたミリアの悲鳴が聞こえる。

 森の中から強烈な殺意を感じる。茂みの奥から背の低い腰が曲がった一匹の魔物が現れた。


「B級モンスターの幻術師!? なんで、そんな大物がこんなところに……ミリア、逃げよう!」

 しかし、魔物の杖から放たれた火球によって、後方にあった大木は倒されて逃げ場を封じられてしまう。


「ど、どうすれば……」

 絶体絶命の窮地に陥った。


 ※


―ジーク視点―


 幻術師は、ローブを羽織ったがいこつのような魔物だ。まさか、こんな場所にいるとはな。最近の魔物の出現法則が乱れているというのは本当だったんだな。


 D級で相手になるモンスターではない。すぐに、助けに行くか。わしは、剣を構える。

 すでに、ミリアは負傷している。魔力攻撃を連発されてしまえば、戦士型のブレアでは近づくこともできないはずだ。


 こちらが動こうとした瞬間、ブレアは叫んでいた。

 負傷しているミリアを巻き込まないように、あえて距離を取って、自分に注意をひきつけるようだ。


「こっちだ、怪物!! まずは、俺から殺せぇ」

 死を前にしても、大事な人を助けたいと気持ちを優先し、前に出ていく勇気を見せていた。


 だが、これはまずい。ブレアに攻撃が集中すれば、致命傷を受ける可能性の方が高い。


 幻術師がいくつもの火球を繰り出して、ブレアに向けて放った。


 だが、彼はその攻撃を巧妙にかわしていく。速度がある魔力攻撃を紙一重でかわしていくその様子はまるで芸術のようだ。


 そして、わしは今まで感じていた違和感の正体に気づいた。

 討伐クエストに失敗し続けているにもかかわらず、この2人は死んでいなかった。討伐クエストの失敗は、高確率で死に直結する。それはどんなに下級モンスターの討伐でも同じことだ。


 だが、ふたりは生きて帰ってきていた。つまり、そこに特異点があったのだ。

 ブレアの戦い方は、非常に判断能力が高く、敵の仕草や視線で次にどのような攻撃が来るのか、瞬時に判断し、対処することがうまい。今は、使いこなせていないので、ただ防御や逃げることだけに使っているが、訓練して攻撃に活用できれば、間違いなく化ける。


 面白い人材を見つけた。

 ここは絶対に助ける。


「くそ、早く手当てしなくちゃ、ミリアが……くそ、くそ、くそっ」

 明らかに格上のモンスターを相手にしていて、時間を稼いでいるだけでも快挙だ。だが、それだけでは大事なものは守れない。


「若者よ。悔しいだろう。この世界は、理不尽に大事なものを自分の手から奪っていく。奪われたくなかったら、強くなるしかない。ひざを折るな。そんなことをしていても、大事な人は守れないぞ」


「えっ!?」

 突如、現れた自分に驚きながら、謎の人影がギルド協会の受付をしているジークだとわかると、「ジークさん!! なんで?」と漏らす。今は状況説明をする時間じゃない。まずは、目下の脅威である幻術師を無力化させる。


「一刀流・疾風怒濤ゲール・レイジ

 敵を一撃で斬り捨てた。


「なんで……ギルドの受付係のジークさんが……最上級剣技を!?」


――――――

(登場人物紹介)


ルイ=クロム(シェーラ=ギルド協会ギルドマスター)


政治力:98

戦闘力:11

指揮力:81

魔 力:32

策 略:95


シェーラの街のギルドマスター。ジークフリートの現・雇い主。

代々、ギルドマスターを輩出するクロム家の現当主で、先代の一人娘。すでに、両親は死去している。

政治力と知力に優れ、人を見る目も高い。父親の遺言で、1年前にギルドマスターに就任した。

女性ながらクロム家の最高傑作とも称されるほどの政治・経営手腕を見せ、その分野ではジークフリートを上回る。お互いの能力を補完し合う関係になっており、彼との相性はとても良い。ギルドマスターとしての収入よりも投資家としての収入の方が多い。

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