第4話あらくれ客を退治する
「すごい、今日の売り上げ、史上最高だったんだ……」
セシル嬢は、驚嘆していた。ただ、旨い酒とおススメのつまみを紹介し、ちょっとした試飲もできるようにしたら、冒険者たちが大宴会を始めたのが勝因だ。
「はは、ただのビギナーズラックです」
「いや、完全にビギナーズラックなんて言えるレベルじゃないわ。普段の売り上げの2倍も上だもの」
ギルドの受付は20時に閉まる。酒場も原則そこまでだ。客たちは、飲み足りないと言って、街に繰り出していった。
「最初の仕事だから、緊張しましたな。立ちっぱなしの仕事も楽じゃない」
老人の定型文を話すと、セシル嬢は「フフ」と笑う。
「体力勝負のきつい仕事ですもんね。明日は、ギルドの受付を教えますね」
「よろしく頼む」
初日の仕事は、無事に終わった。
※
仕事2日目。今日はギルドの受付だ。
「はい、新しい冒険者希望の方ですね。こちらにサインを。こちらが登録者番号を記載した識別標です。あなたにもしものことがあった場合、こちらが身元を確認する重要なタグになります。肌身離さず持っていてください。それでは、ようこそ。地獄の入口へ」
ある程度の定型文を使って、冒険者登録を済ませると、次はシグルドたちが仕事を求めてこちらに来ていた。
「おう、ジーク。昨日はありがとうな。今日はこっちなのか?」
「ええ、慣れないことばかりであたふたしてますよ。仕事の斡旋で?」
「おう。率がいいのを教えてくれよ」
シグルドは3人組。物理タイプ2人と回復系の僧侶が1人。この構成なら、集団で活動するモンスターたちを相手にするのは難しい。強力な攻撃魔力で集団を吹き飛ばす戦法が使えないから。
また、採取系は僧侶が活躍できるが、彼らの性格的にうまくいくとは思えない。ならば、力で勝負できるモンスター討伐のほうがいいだろうな。
「ヘル=ベアー討伐クエストでどうですかな?」
ヘル=ベアーは大きなクマ型モンスターだ。C級下位から討伐が可能になり、攻撃力は高いが、動きは単純でしっかりとした防具を着こんで、適切な回復タイミングを逃さなければ、比較的容易に討伐できる。だが、旅行者や農家にとっては脅威なので、討伐料のコストパフォーマンスが高いモンスターでもある。
「おう、それを受注する。よろしく頼む」
シグルドたちは、意気揚々とクエストに向かった。
「おい、爺っ! なんで、あいつがヘル=ベアーの討伐で、俺は雑魚の討伐なんだ!?」
数回前に受付した大男が、怒りを露わにしていた。たしか、名前はフレイア。ソロ冒険者でD級上位。腕っぷしは、C級中位クラスで戦闘力は高い。だが、協調性が低く、ソロのため非効率な仕事しか受注できないのが不満らしい。
「あなたにヘル=ベアーの討伐は無理です。ランクも足りませんし、そもそも受注可能ランクに達していても、ソロで大型モンスターの討伐は危険すぎます」
「んだと!? 爺だと思って、下手に出れば、調子に乗りやがって。一回、痛い目を見ないと、わからないようだなぁ」
げんこつがこちらに向かって飛んでくる。「ジークさんっ!!」とセシル嬢が悲鳴を上げた。だが、この程度のパンチをいなすことができずに、ギルドの受付なんてものはできないだろう。
ヒョイと体をそらして、フレイアの攻撃は宙を舞う。バランスを崩した大男の右腕を持って、背負い投げの要領で投げ飛ばしてやった。
「はぁ!?」
簡単に倒せるはずの爺に投げ飛ばされて、目を白黒させているフレイアにわしは続ける。
「爺を倒せないようでは、100年早い。勘違いした冒険者の寿命は短い。おぼえておけ」
「ひぃ」
こちらの威圧に恐怖をおぼえたフレイアは逃げるようにして、ギルドを出て行った。
※
「なんだよ、あの爺。うちのギルドでも単体なら上位のフレイアを一撃で……」
「あの目、怖すぎるだろ。完全に、狩る者の目だ」
「ジークさん、あなたは一体……」
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