オリエンテーション

入学式が終わると今度は小規模な講堂でのオリエンテーションが始まった。所属クラス単位でのオリエンテーションのため、ぞろぞろと数十人が一人に連れられ歩くという体験は何だか面白くって、どんな子達がいるのだろうと酷くわくわくする。生まれ育った故郷であるエンリルの町はこちらの城下町に比べ、だいぶ小さな町だった。近くの村から運ばれてきた農作物や畜産物とかを加工して売買する役目を行う、そういう特に観光名所とかがない場所。だから、満足な教育とかもあまりなくて、子供は親の仕事を手伝うことが役目で、こんなふうに大々的な勉強の場を与えられることは初めてだった。こんなにもたくさんの同い年の子達と出会うのも、先生について歩くのも、全部!まだ1日目だというのに、初めてのことが多くて、私はずっとこの都に来てからドキドキワクワクしぱなっしなのだ。次はどんなことがあるのだろうか。そう考えるだけで心がふわふわして、何処までも走って行けそう!…なんて、流石に走ったら先生に怒られてしまう。早る気持ちを抑えて、周りの子たちを真似てしずしずと先生達の後を追った。


「各自、自由に席に付きなさい」


小講堂と名付けられたうちの一つにたどり着き、先生達がが短く告げる。

小、とついているものの実際には大きく広い部屋だ。2階だというのに高い天井に広い間取り、中庭沿いの立地ということもあり、窓からは中庭に咲いていた白い花の木が見下ろせる。下手をすれば実家のお店のホールよりも広いかもしれない。先程の入学式を行った講堂も見たことのないほど広かったが、勉強を行う場所の一つであるこの場所がこんなにも広いなんて、と少女は驚いた。それに何よりも…明るい。

大きな窓から入る日差しは明るく講堂内を照らしている。しかし、仮に窓横に備え付けられたカーテンを閉じたとしても、天井に吊り下げられた大きな光源がこの講堂内を照らすのだろう。この講堂内を明るく照らす光源には大ぶりの魔石が使用されている。普通の家庭ではあんな大きな魔石を光源にするなんて考えられなくって、少女はパチクリと目を瞬いた。あれ一つで幾らなのだろうか、と少し緊張しながら空いている席の一つに着く。


「諸君らは本日をもって、この王立ゾディアック学園の生徒となった。学園の名に恥じぬ振る舞いを心がけなさい」


静かなままの小講堂内で無愛想な表情の教師がそう告げる。黒を基調としたシンプルなコートに、襟がかっちりと詰まったシャツを身に纏っている。薄く長いグレーの髪の毛を後ろで一つにし、短い前髪の下から左目にかけて覆うようにして大きな火傷の跡があった。大きく爛れた火傷の痕に誰も驚いたり、悲鳴を上げていないのは、説明中だからだろうか。それとも、そのくらいの怪我は魔術を使う際には普通なだけ?そんな考えが頭を過ぎってしまって、まだ見ぬ魔術への恐怖を覚える。


「私は諸君ら、1年C組の担当のシェダル・ツィーだ。担当科目は魔術学A・B、防衛学の3科目。防衛学は3年からだが、魔術学は1年からの必須科目となる。我が学園では授業の科目を選択し、自由に学ぶことができるが…」


淡々と自己紹介をし、担当教科について軽く説明を行うシェダルはぐるりと生徒を見渡し、強調するかのように付け加える。


「中には魔術学のような卒業するまでに取らなければならない科目があることを忘れるなよ。詳しいことはレジュメに書いてあるから、よく読み込み、申請を行うように」


先生の話を聞きながらぼんやりと眺めていたプリントに急いで目を通す。確かに卒業のためにはいくつかの必須科目と分野ごとの選択科目を受講しなければならない、みたいだ。何とか読み取れる単語と先生の説明を照らし合わせ、理解を行おうと試みる。正直言うと、難しい言葉が多くて目が文字の上を滑ってしまい、頭にうまく入らない。


「副担当のガネット・エラキスです。気軽にガネット先生って呼んでくださいね。担当科目は現代信仰と科学、信仰学、後は古代魔術学も兼任してます。基本的に信仰、宗教系についての学問を担当しているから気になることがあったら何時でも聞きに来てください」


続いてふわふわした印象の女性が前に出て自己紹介をする。クリーム色のカーディガンに深緑色のマキシ丈のフレアスカート。桃色の長い髪の毛を緩い三つ編みにして横に流している。にこにことした表情と裏腹にメガネの奥から覗く黄緑色の眼差しはどこか芯の強いものを感じさせた。


「1年C組は私達二人が担当を行うが、各科目ごとに多くの教員が在籍している。くれぐれも失礼のないように、学園の規則を守り無事に3年間を過ごしてくれ。以上だ」


授業の割り振りや申請方法など必要な事柄を簡素に説明し終わり、シェダルは短く話を締めくくる。


「はーい、それじゃあこの後は自由に学内を見回って大丈夫よ。今のうちにしっかり学園内の地図を頭に入れて、明日から始まる講義に間に合うようすること。困ったら上級生にも適宜頼ってください。後は…そう、学生寮はどれも門限が7時までだから、ちゃーんと間に合うようにしてくださいね」


門限なんてあるんだ。間に合うようにしないといけない。朝みたいに迷わないようにしなきゃいけないや。


「じゃあ、解散です。皆、また明日ね」


じゃあね〜!と軽い去り際の言葉を残して先生た達は小講堂から出ていった。


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華の乙女 四月一日真理@初投稿 @mari-41

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