第234話

「虫は見ただけで取り乱すレベルで嫌いって訳じゃ無かったんだけど……やっぱりあのサイズは気持ち悪い」


青木さんの言うことも分からなくもない。

デカい虫が足をわしゃわしゃさせながら近づいて来る光景は誰だって身構える。


ダンジョンで稼いで借金を返すという信念で克服したんだから大したものだと思う。


完全に克服した訳じゃないけど、完璧に取り乱して見え見えの罠を作動させると言うことは無くなった。

そうなればこの階層に留まる理由も無いので魔法陣を使って次の階層に移動した。


「ようやく人型のお出ましか」


虫系の魔物が出現する階層の次は緑色の小人

ゴブリンが出現する階層だった。


今までの階層に出てくる魔物はあんまり感情というものを感じないような種類ばかりだった。


人型となると表情や動き、声そういったものから今まで倒した魔物よりこちらに対する殺意を感じられる。


1階層の動物はこっちに殺意を向けてくる事はなかったし。


2、3階層の魔物たちは侵入者を攻撃するとプログラミングされているロボットのような感じでこちらを攻撃する意思はあっても殺気は感じられなかった。


俺からしたらゴブリンの放つ殺気なんて何にも感じないけど。青木さんからしたら初めての経験。

虫系の魔物の時のようにパニックなるとまでは行かないけど、動きが固まってしまっている。


今までは自分で何とか出来なきゃダンジョンで稼ぐのは無理というスタンスで、俺や勝彦が手を出す事は無かったけど。


これに関してはこの一瞬で克服しろと言うのは酷なものだ。


「折角だし、あのゴブリンはサティに倒して貰おうか。サンダーソードシープの強さも見てみたいし」


「って事らしいからサティよろしく」


「メェー」


サティが鳴き声を上げると巻き角から電撃が発射されてゴブリンを避ける素振りすら見せずに被弾、一瞬で消し炭になってドロップの魔石だけ残して消えてしまった。


「やっぱり雷って強いよね。威力があって、速度もあるし、軌道が読みずらい」


それを聞いたサティの鼻息が少し荒くなる。

嬉しかったのかな?


「青木さんは取り敢えず。殺気になれるところから始めよう。それまでゴブリンは俺たちが相手するから」


俺がゴブリンを倒す為に放った熱線を見てサティが落ち込むと言うアクシデントはあったけど、それ以外は何事もなくゴブリンを倒していく。



「ゴブリンは何も用意していないし。冷静にパチンコ玉を投擲すれば一方的に攻撃して倒すことが出来るから。冷静にただゴブリンにパチンコ玉を当てる事だけを考えて」


ゴブリンとの遭遇を繰り返すうちに、そろそろ行けそうと言うので、ゴブリンへの攻撃を青木さんに任せる。


真剣な顔をした青木さんがパチンコ玉をゴブリンに向かって投擲する。


安全を考えて今までより距離を取っての戦闘なので、ゴブリンに余裕を持って避けられてしまう。


が。ゴブリンが避けた瞬間パチンコ玉の軌道がゴブリンの避けた方向に曲がりゴブリンの脇腹にヒットする。


〈投擲〉スキルで使える能力の1つで自分で投擲したものの軌道を任意のタイミングで変える事が出来る。

軌道を変える回数は今は一回だけだけど、何度も使っていれば増えていきそうと青木さんが言っていた。


ゴブリンからしたら完全に不意をつかれた感じだ。

脇腹を手を当てて地面に片膝を着いてしまう。


青木さんはチャンスとばかりにパチンコ玉を連投。

やがてゴブリンは魔石を残して消えてしまった。


「はぁはぁ……やった!」


「喜んでるところ悪いけど。追加が来たよ」


一回倒せたんだから次も問題ないだろう。


時間をかけてしまった事で寄って来たゴブリンの相手も青木さんに任せる。


と言っても何度も何度もパチンコ玉を投擲して青木さんも疲れてきている筈だ。


ゴブリン以外の魔物だってパチンコ玉投擲で倒している訳だし。


「と言っても何度も投擲するのは疲れるだろうし、特別にコレを貸してあげる」


闘技場で手に入れたけど、使う予定が一切無いただの鉄製の投げナイフを渡す。


ナイフ投擲なんてやった事無いだろうけど。

〈投擲〉スキルの補正も有るし、投げられないってことはないでしょう。

投擲してから軌道の修正も出来るからゴブリン程度なら外すこともないだろう。


鉄製の投げナイフを受け取った青木さんは柄の方ではなく刀身の方を持って構えてゴブリンに向かって投擲した。


ゴブリンに当たる軌道からは少しズレていたけど、起動を修正する事でコブリンの頭部に投げナイフが吸い込まれるようにサクッと刺さる。

ゴブリンはそのまま地面に倒れてドロップの魔石に変わった。


「パチンコ玉の時は何発も投げなきゃ行けなかったのに、やっぱりこういった武器が必要になって来るんだね……と言っても何処で手に入れればいいか分からないし。ダンジョンに向かう途中で職質されたら捕まっちゃうよね」


「それに関しては、冒険者ライセンスを取得したあと、迷宮省発行の武器を持ち歩く許可証を発行して貰えば問題ないよ」


すぐに武器として使えない状態にして持ち歩かなきゃ行けないとか結構細かいルールが有るけど。

ダンジョンに挑むのに武器無しで挑むのは自殺行為だからな。

そこら辺は対策を考えられている。


許可証の発行が終わっても武器ってそこそこの値段するだろうしそこでまた苦労する事になると思うけど。



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読んでいただきありがとうございます。

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