第177話

「取り敢えず。日本に帰るタイミングになるまで、ティル・ナ・ノーグで待って貰う感じで。流石にカイゼルさんを普通に連れ歩いたら大騒ぎになっちゃいますから」


サンタクロースより立派な顎髭をしている小人って見た目だから。

見ただけでドワーフ?って思われちゃうし。


鍛冶師として日本に連れ帰るなんて馬鹿正直に説明したら。あの手この手を使って妨害してくる勢力が出てくるだろう。


こんな情勢の今、高性能な武器を作れる職人を欲しいと思わない人なんていないだろうし。


だったら、俺が日本に帰るまでティル・ナ・ノーグで大人しくしてもらって、E国では姿を一切見せないようにすれば良い。

帰りは転移結晶を使って桃源郷に一瞬で戻るつもりだから。

E国の人にカイゼルを見られることは無い。


「人間の権力争いに巻き込まれるのはゴメンだし、儂はそれで構わないが、その間龍酒は無しか?」


重要なのはそこか。


「それに関してはティル・ナ・ノーグにいる間も俺からの仕事を受けてくれるなら、龍酒を渡そうと思ってる」


「龍酒が飲めるなら幾らでも仕事するぞ!」


「と言っても、龍酒を大量に持ち歩いてる訳では無いんで、本格的にいっぱい飲めるのは日本に行ってからだと思っていてください」


「まぁ、仕方ないか。それで、儂は何をすれば良い?」


「龍の牙を武器に加工する事って出来ますか?」


「武器の形に削って加工するって感じになるが可能だぞ」


「なら、これで武器を作って。龍酒は取り敢えず10Lね」


「流石は龍の牙、軽くて丈夫。これなら、国宝級のショートソードを作ることが出来るだろう。何時までもこんなところで油を売ってる訳には行かん。オベロン、儂をさっさとティル・ナ・ノーグに帰せ!」


「はいはい」


オベロン王が呆れた顔をして指パッチンするとカイゼルが消えた。


「悪いね新藤。君の牙を見て鍛冶師としての血が騒いじゃったみたいだ」


「ただのお酒好きじゃないって分かって、こちらとしても一安心です」


それだけ鍛冶に対する情熱を持っているって事だからな。


「カイゼルはティル・ナ・ノーグに暮らす鍛冶師の中でトップファイブに入るレベルの実力者なんだけど。ティル・ナ・ノーグも魔物は現れなくなって、武器の需要はどんどん減少して、死んだ魚のような目をしながら日用品を鋳造で作ってたからね。あんなに生き生きとした目をしている姿を見るのは久しぶりだ」


武器や防具を作る事に誇りを持っていたと言う訳だな。


それにしても、初回から凄い腕を持った職人を紹介してくれたんだな。

俺が武器や防具を依頼するのは分かりきってるし。

今の状態でティル・ナ・ノーグで職人として暮らすより良いだろうって判断してくれた訳だ。


「そうだ。伝え忘れてたんですけど。今回作ってもらう武器は友好の印としてオベロン王に献上させて貰うつもりなので、カイゼルにそう伝えて貰えますか?本人にお願いするのもアレなんですけど……」


ティル・ナ・ノーグにいるカイゼルにこの事を伝える油断がオベロン王にお願いする以外に無いから仕方がない。


「成程。ティル・ナ・ノーグにだってダンジョンが出現しないとは言えない現状。これ程嬉しい献上品はないね。有難く受け取らせて貰うよ」


そっか。ティル・ナ・ノーグにだってダンジョンが出現する可能性はゼロじゃないか。


「それにしても。王に献上するなら、装飾を豪華にする必要が有りますかね?」


牙しか渡してないしかなり無骨なショートソードになるだろう。

いくら強力な武器と言ったって、それを王が使うとなると色々問題視する臣下達が出てきそう。


「龍の牙に宝石とかをつけるなんて、逆に美しさを損なうと、私は思うんだけどね。ただの宝石程度では龍の牙には到底釣り合わない。それを理解してくれる者も居るだろうけど。それを利用して新藤から素材を分捕ろうと考える者も居るだろうし……」


妖精たちも人間と変わらないんだな。


「なら、これを使ってください。俺が生み出した炎を結晶化させた物です。これなら釣り合いが取れるんじゃ無いですか?」


様々な色の結晶をオベロン王に渡す。


今回は聖炎だとか蒼炎だとか、追加効果のある炎を結晶化させた訳じゃなく。

単純に炎の色を変えて結晶化させただけの物だ。

前に実験で作ってみて残っていたものを丁度いいから押し付けた形だ。


相手からしたらそうは思わないと思うけど。


「確かにこれが有れば、実用性と見た目を兼ね備えた素晴らしい短剣が出来上がるだろう。それこそ国一番の国宝になっても可笑しくないぐらい。ただ、それはそれで、面倒事が新藤に降りかかることになる。何事もやりすぎは良くない」


「どちらにせよ。面倒事には巻き込まれるでしょ?その迷惑料込だとお考え下さい」


何もしなくたって龍ってだけで、面倒事に巻き込まれるんだから。

ここで関わりを持った時点で、欲まみれの妖精に絡まれる事は確定したと俺は思っている。


それならもう、最初からはっちゃけてオベロン王を味方につけた方が良い。

そう言えば、オベロン王って妻はいるのかな?


冷静に考えれば王なのにいない訳無いか。


王に贈り物をして王妃に贈り物しないってのも問題だよね。


取り敢えず。結晶を追加すれば良いかな?

不安だし、宝石もちょっと追加しておこう。


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読んでいただきありがとうございます。

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