第144話

「ようやく。撮影をスタートできるわけだ」


当初は危険もあるから30分で撮影を終わらせてダンジョンを切り上げる予定だったはずなのに、臭いにやられてダンジョンに入って一時間経ってようやく撮影がスタートした。


俺は撮影のスタッフの後で愚痴りながらついて歩く。

進むスピードもゆっくりだし。

いつになったら撮影が終わるんだか…

まぁ、少しでも撮れ高が欲しいために、さっきから質問攻めになりながら罠探知をしている河村さんに比べたらマシか。


そんなことを考えていると後ろからアンデッドドールが現れる。


俺たちが通った後に新しくポップした個体だな。


さて、どうしたもんか…俺が氷魔法を使ったように見せて倒すのは簡単だ。

でも、道が狭い以上カメラは河村さんと男性アイドの映像を撮るために前から二番目の位置にいる。


ちなみにどう言う陣形で移動してるのかと言うと。

先頭に河村さん男性アイドル

二列目がカメラマンとでっかいマイクを持っている人。

三列目にもしもの時のための機材のスペアを持ってる人が二人。

四列目に男性アイドルのマネージャーと番組プロディーサー

五列目に俺と透明になってるソフィア。


しかも機材のせいで二列目以降は、かなり距離が開いている。

機材だけじゃなくてマイクが音を拾っちゃわないようにかもしれないけど。


トラップが多いダンジョンでよく距離を開けて歩けるものだ。

トラップの位置も分からないくせに。

今のところは後ろから俺が罠の位置を教えることで何とかなってるけど、この戦闘中にパニックになって変に動かれたらトラップが作動するぞ?


問題なのはカメラが直ぐにこっちを撮影できないってことだよね。

カメラマンが焦ってこっちに来てトラップを発動させるとかも最悪だし。


かと言ってここで撮影させないと、このロケがいつ終わるか検討もつかない。


ウィーに細かい指示ができる訳じゃないし、

ウィーに協力してもらうとなると倒しちゃうんだよな。


いい感じに足止めして先頭から来た。男性アイドルにトドメをさしてもらうのが理想だけど…


「仕方ないか…そこら中にトラップがあるんですから、何があっても動いちゃダメですよ?串刺しになりたいんなら話は別ですけど」


そう言ってアンデッドドールに向かっていく。


こうなったら、素手で超手加減して時間を稼ぐしかない。

アンデッドドールに接近戦とかすごい嫌だけど。

こんな撮影にいつまでも付き合う方がもっと嫌だ。


警棒とかぐらい借りておくべきだったな。


向こうが来るまで待っていると、撮影班が近くにいる状態で戦闘することになって非常に邪魔なので。

こっちからアンデッドドールに接近して撮影班と離れたところで戦闘を開始する。


アンデッドドールは全速力のまま跳躍して噛み付こうとしてくる。


空中で姿勢を変える術を持ってないだろうにジャンプしちゃったら格好の的じゃん。

と思ったが、攻撃はせずに少し後ろに下がってアンデッドドールの攻撃を躱す。


アンデッドドールが動く度に辺りにまきちらいている緑色の液体も体温を上昇させることで体に触れる前に蒸発させることで回避する。


やった後に不味かったかなって思ったけど。

さすがにあの液体が触れるのは嫌だ。


後ろを振り向くと、男性アイドルと河村さんがだいぶ近くまで来ていたので、このまま避けているだけで良さそう。


初めて見た魔物にビビって動けないってことも想定してたので、これは嬉しい誤算だ。


俺が下がって合流してもいいけど、全く弱ってない状態のアンデッドドールと戦わせて大丈夫かな?


「そっか魔導銃使えばいいんだ」


弱い魔物の死体を使ったアンデッドドールでさえ倒すのに四発必要だし、使わないかなって思ったけど。


逆に言えば四発撃たなきゃ死なないんだからいい感じに弱らせるのに最適じゃん。


当たりどころが良ければもっと少ない弾数で倒せるかもしれないけど。

一般高校生に射撃の腕を求めないで欲しい。


魔導銃を取り出してアンデッドドールに向かって射撃する。

セミオート射撃で5発撃ち込んで2発の命中だ。

なんとも言えない命中率だ。


アンデッドドールは致命傷とまでは行かないくても無視できないダメージを受けてその場で倒れる。


チョロまか動くと攻撃当てられないだろうし。ちょうどいいだろう。


魔導銃を下ろして到着した男性アイドルに任せる。


男性アイドルが外でやっていたように剣に魔力をチャージし始める。


…うん長い。


チャージに時間かかりすぎで、倒れていたアンデッドドールも動き出してしまった。


まだまだ、時間かかりそうだし仕方ないか。


アンデッドドールの頭部を掴んで地面に押さえつける。


普通にやると頭部がべしゃってなって倒しちゃうので、かなり手加減して地面に押さえつける。


男性アイドルはどうすれば?って顔で焦りだしたけど、河村さんがそのまま攻撃していいと指示。


俺が良ければいいだけだしね。


男性アイドルは魔力がチャージされてキラキラした剣を上段に構えて振り落とした。


「セイントスラッシュ!」


セイントって言われるとなんかそのうち黄金の鎧とか装備し始めそうだな。



ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


読んで頂きありがとうございます。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る