予言と聖女
「探せ! 聖女はどこだ!?」
アイマス帝国では決して軽くはない騒ぎが起こっていた。その原因は、
『聖なる力が魔へと堕ちし時、かつての聖戦が再び引き起こされる鍵とならん。聖なる者、いずれ必ず引き金に』
アイマス帝国上層部は、聖なる力を持ちし者=聖女、そして魔へと堕ちると言う文言を、聖女の魔力が魔族特有のものへと変質するのだと解釈した。つまり聖女の魔力が魔族特有のものに変質したら聖戦が起こる、よって変質を起こす前に聖女を処分することが国で決定されたのだ。
ーー魔力の変質、これは非常に稀ながら起こることである。特に聖の力を持つものに比較的起こりやすい現象である。彼女が聖女である、と言うことも手助けし、ものすごい速さで聖女の処分が決定されることとなってしまったのだ。
「必ず見つけ出せ……! 聖戦は絶対に起こしてはならぬ……!」
ーー聖戦……それは世界を巻き込んだ種族間の戦である。古来より生まれた魔族、天使、その後に生まれた妖精族、そして最後に生まれた人間族。先に起こった聖戦では、魔族とそれ以外の3種族により引き起こされた。聖戦によって各種族ともに大きな被害を出したものだ。そしてそれは生物にとどまらず世界そのものにも大きな影響を及ぼした。多数の大魔法を使ったことによる
魔物の誕生に危機感を覚えた当時の各種族トップによる話し合いの結果、各種族で統括地域を分けることにより戦争は終結した。天使が統括する天界、魔族が統括する魔界、妖精が統括する妖精界、そして人間が統括する人間界。
各種族が欲した世界を分けることで聖戦の終結を図ったのが凡そ5000年前。すでに
人々は怖かったのだ。数で他種族……特に魔族へと対抗してきた人間、しかし現在はその数も減ってきていた。もし今一度聖戦が起こされたならば人間そのものが滅んでしまうかもしれないという危機感があったのだ。それがアイマス帝国皇帝の中では特に強く根付いていた。故にこそ帝国は覚悟を決めた。人々を守るために聖女を犠牲にしようと。聖女を始末し、再び聖戦が起こることを阻止しようと。しかしアイリスにとっては知る由もない話で聖戦が起こる可能性があるからと命を狙われるのはたまったものではないだろう。
◆
「それでアイリス、お前はどうしたいんだ?」
落ち着いたアイリスに対して、レオンは改めて意志の確認を取る。
「私は……生きたい、生きてもう一度お母さんにお礼を言いたい……きちんと埋葬してあげたい……」
小さい声ながらも、確かな意志を持ってアイリスも応えた。
「そうか、とりあえず……お前は目立ちすぎる。これでもつけておけ」
そう言ってレオンは一つの布を取り出した。表も裏もただ黒いシンプルな布。いきなりよく分からないものを渡されたアイリスは心底困惑し、困ったような顔でレオンの方を見る。
「多分それでお前の
「レオン様、ここら辺一帯には特殊な結界が張られており、基本的にレオン様が認めたものしか入ることはおろか認識することすらできませんよ」
レオンの言葉にホロが突っ込む。
「……もし外に出た場合、結界が破られた場合はどうするんだ? 対策しておくに越したことはないだろう」
もちろんそんなことは考えてすらいなかった。そもそも結界云々なんてものは知りすらしなかったのだ。とりあえず誤魔化しておいたが、意外といい言い訳ではなかろうか?
「あらゆる可能性を考慮した行動……感服致しました! 配慮が足らず申し訳ございません……」
そう言い謝るホロ、しかしその瞳にはかすかな期待が見えていた。おそらくdis待ちだろう。
「よし、それじゃあとりあえず持ってろ、服にするでもいい、マントっぽく羽織るもよしだ」
しかし、レオンはあえてホロを無視した。面倒だったからだ。
「放置……プレイ!? んん……これはこれで……いいっ!」
どうやら本当にどんなことでも快楽へと変換できるらしい。もはや羨ましい限りだ。
「あ、あの……そこの人は大丈夫なんですか?」
アイリスは顔を赤くし、身体をくねくねさせているホロが心配になったようだ。正直レオンもホロの頭が心配であった。
「安心してくれ、平常運転だ」
「そ、そうですか……」
先程もホロの異常な姿は目の当たりにしているはずだが恐らくそこまで気を配る余裕がなかったのだろう。だが今は違う、はっきりとあのドMを認識してしまったアイリスは心底困惑し、そして何故かホロの方をじっと見つめた。
「……何ですか?」
見つめられていたのが気に入らなかったのだろうか、ホロはアイリスを睨みつけ、それから威圧的に
「……もったいない」
「それはすごい思ってた」
アイリスがぽつりと漏らした言葉。そしてそれはレオンが出会った直後からずっと思ってたことでもあった。
「レオン様……何がですか?」
「その気色悪い言動」
「んなぁっ!? き、気色悪い……? そ、そんな……レオン様!? 私のどこが気色悪いのですか!?」
顔を赤くしながらホロはレオンを問い詰める。ちなみに顔が赤いのは怒りからではなく悦びである。
「まさしくそれだよ、今のお前の行動だ。というか本当にどうなってんの?」
心からの疑問だ。精神的ダメージを快楽に変換できるだけでなく、肉体に与えられるダメージすらも快楽に変換できるのではなかろうか?
「き、気色悪いだなんて……! 私は欲望に忠実なだけです!」
心外だ、とでもいうかのようにホロは憤慨する。しかし、やはりというべきか、その表情には恍惚とした紅が表れていた。
「少しは慎め気色悪い」
「んんっ!?」
いついかなる時でも平常運転、この姿勢だけは見習おうと思うレオンだった。
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