プロローグ バッドエンディング

「た……しゅ……けて……」


しばらく経った後、勇者の消え入りそうな声が辺りに響き渡る。魔王と勇者の戦いは一瞬でケリがついた。地に倒れ伏す勇者とそれを霜の降りた目でもって見下ろす魔王。魔王の圧倒的な力に、勇者はなすすべなく負けてしまったのだ。


「おい、立てよ。こんなもんか? 選ばれし勇者様とやらは」


魔王が勇者を嘲笑いながら顔を蹴る。もはや抵抗できない勇者は何も言わずに、ただ為されるがままだった。


「はぁ……つまらんな、もう死ね」


何も言わなくなった勇者に呆れて、魔王は魔法を放つ。魔王が生まれ持つ希有な魔力を用いた魔法だ。その魔法は一瞬にして勇者の命を刈り取るに至った。


「さて……もう魔族は俺を除いて一人もいない……こんな世界要らないよな。


愛する者も、信のおける仲間もいない、こんな世界をレオンも自分も望んではいなかった、故に滅ぼす。勝手なやつだ、と言われるかも知れないがそれこそが魔王であり、力あるものに与えられた自由だ。

 魔王の言葉を皮切りに、世界はゆっくりと音を立てて崩れていく。当然魔王自身も最後には消滅することになるだろう。しかし彼に恐れはなかった、未練はなかった。……否、彼の心残りはただ一つ、ホロを、仲間たちを守れなかったことだろう。しかし嘆いてももう遅い。全て壊されてしまったのだ。


(もし、次があるのなら今度こそは……)


最後に彼は願い、そして誓った。次は守る……と。


ーーBAD END 孤独の王ーー



「ふぅ……これも今日で最後か……」


彼の名は、佐藤祐希さとうゆうき、今はかつて流行ったゲーム、魔王の書を再プレイしていたところだ。

 流行ったとは言っても十と数年も前の話、今やすっかりプレイ人口は減り、形骸化していた。形骸化して、人気のなくなったゲームに待ち受ける結末は……そう、サービス終了である。この魔王の書も例に漏れず、サービス終了を迎えることとなった。


「それにしても十数年か……」


随分と長いこと続いたものである。

 サービス開始の頃、彼はまだピチピチの中学2年生だった。それが今では立派かどうかはわからないが一端の社会人である。

 共に始めた奴の中には、すでに結婚して親になった者、この小さな国から飛び出して海の向こうへと職を求めて行った者。ただ、そいつらにはひとつだけ共通点があった。それは皆ゲームを早い段階で辞めたということだ。対して彼は未だに続けている。過疎ってほぼ人がいないゲームをだ。

 このゲームを楽しむ方法はオンラインだけではない。ストーリーでも楽しめる。

 彼が今行っていたのはストーリーの再履修である。ゲームが終わるまでにもう一周してやると一月前に決め、今日ギリギリでクリアできたのだ。ちなみに今のは解放されていなかった最後のバットエンディングである。

 すでにゲーム内の時計の短針は3の数字を指して留まっていた。外の世界ではすでに暗闇が世を支配しているからだろう。ゲームの強制シャットダウンは午前4時、あと一時間である。


「もう少し回ってみるか……」


後一時間も有れば、おそらくある程度は回れるだろう。どうせ最後なのだ。盛大に楽しんでやろうではないかと彼は意気込んだ。

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