第54話 懐かしの舞台
後半戦が始まるホイッスルが吹かれた。
外の世界とは一線を画す白線の内側。ホイッスルの音が鳴り響くと、ピリッとした空気がグラウンド全体に流れ始める。重たくのしかかってくる緊張感。そっと寄り添ってくれる安心感。この独特な空気がとても気持ちよくて、僕はピッチを縦横無尽に駆け回った。
相手は前半の得点を守るべく守備を固めて、明らかに時間を稼ぐ戦法を執っていた。本職であるトップ下の一つ上のセンターフォワードで起用された僕は、相手の最終ラインに厳しくプレッシャーをかけた。初めのうちは僕が勝手に走り回っているだけだったため簡単にかわしていた守備陣だったが、疲労とチームメイトの連動したプレスによって徐々に綻びが生じてきて、一本のパスミスが起きた。
それを見逃すまいと飛び出した鮫島先輩から、想いの詰まったボールが僕の右足ドンピシャに供給された。開けた視界の先には、白い枠に囲まれたゴール。そしてゴールキーパーとディフェンダー三枚。背後からは味方の上がりを感じる。
斜め後ろに視線を向けると、目の前にいるディフェンダーの重心が少し傾いた。刹那、鋭いフェイントで相手を抜き去る。さっきのディフェンダーは完全に重心を崩され、尻もちを付いていた。
そこからカバーに来た二枚のディフェンダーもかわしてキーパーと一対一。互いに小さな駆け引きを展開し、最後は心理戦に勝利した僕がゴールネットを揺らした。
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