第51話 来訪者
涙が溢れて止まらなかった。口語体も文語体もバラバラに使われてるし、話の流れもチグハグだし、お世辞にも良い文章とは言えない。
だけど、今まで読んだ文章の中で一番ぬくもりを感じた。
今までもらった手紙の中で、一番うれしかった。
そして、今日まで生きてきて初めて、痛いくらい胸が締め付けられた。
「葵……。教えてくれよ。俺のいいところ……。そばに。隣に居てくれよ。また、太陽みたいにきらきらした笑顔を見せてくれよ……。葵……」
胸の奥から言葉が溢れだす。瞼の裏に流れる宮坂との思い出。あの日、病院で見たものよりも温かくて、優しくて、やわらかくて、とても冷たい。
ずっと宮坂の想いを踏みにじってた。
ずっと宮坂の想いから目を背けていた。
自分自身から目を背けていた。
じぶんに嘘をついていた。
息が苦しくなるくらい胸が苦しくなって、視界が水の中に入ったみたいにぼやけてきた時、
『千冬君』
彼女の。宮坂の声が聞こえてきた気がした。
「葵?」
涙で歪んだ視界を拭って顔を上げると、目の前に半透明の宮坂の姿があった。
「なんで……。なんで葵がここに……?」
もういないはずの人が目の前にいる。奇妙で不可解な出来事のはずなのに、こころは弾んで、胸が心地よく締め付けられる。
『千冬君のことが、あまりにも心配だったから。来ちゃった』
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