第50話 拝啓 大好きなキミへ

橋本千冬君へ


 君がこの手紙を読んでいるということは、ようやくサッカーをやる気になってくれたってことだね? よかったよかった。

 千冬君がサッカー部を離れてから、毎日毎日お家に通った甲斐があったね!

 最初のうちは全然話してくれなくて、いっつもぶっきらぼうで。すごく寂しかったのを覚えてます。ほんとに、毎日どうやったら千冬君が笑ってくれるかなって考えるのがすごく大変でした。でも、すごく楽しくもありました!

 二年生になって、クラスが一緒になって、席もお隣になって。少しずつだけど私と話してくれるよになって。すっごく嬉しかった。部屋の隅っこにあるごみ箱に、丸めた紙がきれいに一回で入った時くらい嬉しかった。それに、毎日が本当に楽しくて楽しくて! 千冬君をサッカー部に連れ戻すことなんて、半分くらい忘れてた。ダメだね。役目はちゃんと果たさなくちゃだよね!

 これからは気をつけなくちゃ、ってもう必要ないんだよね?


 千冬君がサッカー部を辞めたって聞いたとき、みんなすっごく寂しそうでした。

 支えられなかったことを悔いていた三好先生、鮫島先輩。自分の力不足を感じてて、本当は一番チームに戻ってきてほしがってた笠井先輩。チームの軸が崩れて、ガタガタになっちゃったチームのみんな。私含めたマネージャーのみんな。

 こんなに淋しがってて、千冬君を求めている人がたくさんいるのに、千冬君はすごく頭がよくて。どんなに伝えても軽々とかわされちゃって。ほんと、大変だったよ? 

毎日。千冬君、頭良すぎるんだもん!


 そんな懐かしい思い出話はここまでにして、ここからは千冬君に向けて伝えたいことをひたすら書きます。心して読むように。


 千冬君は考え過ぎです!

 千冬君はネガティブ過ぎです!

 千冬君は思い込みが激し過ぎです!

 千冬君は他人に頼らな過ぎです!


 いっつも見ていて心配になってました。千冬君の中にサッカー部っていう居場所が完全になくなったら、一匹狼みたいになって閉じこもっちゃうんじゃないかって。ひとりぼっちになっちゃうんじゃないかって。だから、お節介かもしれないし、迷惑かもしれないけど、毎日、千冬君の家に行って、千冬君にたくさん話しかけてました。効果はあったかな?


 そしてここからは、千冬君に本当に伝えたいことを書きます! さっき以上に心して、深呼吸をしてから読むように。


 千冬君は、サッカーボールと触れ合っている時が、一番輝いています!

 千冬君は、誰よりも、なによりも、サッカーが大好きなはずです!

 千冬君は、すっごくすっごくかっこいいです!

 千冬君は、すっごくすっごくすーっごく優しいです!



 葵は、そんな千冬君の事が大・大・大好きです!



 これこそ本当の迷惑だったかな……? でも、千冬君にちゃんと伝えておきたかったんだ!

 葵は千冬君の事が大好き! 誰よりも好き! じゃなきゃ、毎日お迎えになんて行かないし、会話の続かないぶっきらぼうな人と話したりなんかしません。それに、あんなに笑顔でいられないよ。


 千冬君は、じぶんのことが大嫌いかもしれません。だけど葵は、千冬君の事が大好きです。じぶんのいいところが分からなくなったら、いつでも葵に言ってください。そしたら葵が、千冬君のいいところを100個でも200個でも、1000個でも1万個でも。絶対に言ってみせます! それくらい、千冬君の事が大好きです。


 千冬君は、葵のことどう思ってるのかな……?

 好き、だったら嬉しいなぁ……。


 お返事、聞かせてね?



 千冬君が一番輝いている、グラウンドの上でずっと待っています。



                      千冬君のことが大好きな宮坂葵より

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る