第46話 激情
そして決勝戦前日――。
「明日はいよいよ決勝戦だよ? 相手は因縁の桐陵高校だよ。みんな去年の雪辱果たすって、すごく意気込んでた」
いつも通り、笑顔で柔らかく話しかけているつもりだった。でも、この日はどうしてかいつも通りにならなくて。声は言葉を放つ度に震えが増していき、宮坂の右手を包む自分の手にはぎゅっと力が入る。
「宮坂……。目、覚ましてくれよ……」
こうして毎日、病院に通ってみて身に染みて感じることがある。それは、
――僕は宮坂がいないと全然ダメだということ。
朝、独りでの登校。隣に宮坂がいないと、風景が全部モノクロに見える。
昼、独りでの昼食。隣に宮坂がいないと、美味しいご飯も美味しく感じない。
放課後、下校の前。宮坂の『部活行こう!』の言葉がないだけで、胸が苦しくなる。
――僕の隣には宮坂葵が必要だってこと。
――宮坂葵が、誰よりも大切だということ。
――僕は、宮坂葵が大好きだっていうこと。
こうして宮坂の柔らかな右手を握っているだけで、すごく優しい気持ちになれて。
こうして宮坂の隣にただ座っているだけで、とても楽しくて、すごくうれしくて。
「宮坂……」
目の前がぼんやりと歪む。瞼を閉じると、目の下に一筋の道が出来て、目をつぶる度、幾重にも分かれて一つの雫となって僕の手の上に落ちる。
「葵! 起きろよ! 葵!」
心が熱くなって、僕は激情に身を任せて強く、宮坂に声をかけた。
その時、握っていた手が少しだけ握り返された。
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