第42話 天国と地獄

 そんな宮坂と二時間ほど汗を流して、僕たちは運動公園を後にした。


「楽しかったね?」

「あぁ……」

つい零れてしまった本音に、僕はすぐに口を噤む。宮坂は、その小さな一言に敏感に反応して、表情をパッと明るくさせた。

「今、楽しいって言ったぁ!」

とても嬉しそうに飛び跳ねる宮坂に、「言ってない」とぶっきらぼうに返事をする。それなのに宮坂は、

「葵はすっごく楽しかったよ!」

まだ明るい笑顔のままそう言って横断歩道に背を向けて、僕の前にちょんと飛び出した。その時、

『危ない!』

鬼気迫る男性の声が遠くから聞こえてきた。宮坂の笑顔に合っていたピントを外して、全体を見る。

 男性の声の意味がようやく分かった。

 宮坂の背後から、白のワンボックスカーがものすごい勢いでこちらに突っ込んでくる。

「宮坂!」

手を伸ばして宮坂の腕を引こうとした。だけど、僕の右手は宮坂の腕に触れる瞬間、虚空を掴んだ。

『きゃぁ~!』

女性の甲高い悲鳴が都会の喧騒を一気に切り裂く。

「宮……坂……?」

数メートル先に横たわる宮坂に力なく声をかける。

 宮坂の明るい声は、返ってきてくれなかった……。

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