第41話 懐かしさ
少し歩いて、学校とは真反対にある広めの運動公園にやって来た。
「ここなら誰とも会わないだろ……」
独り言ちりながらスパイクに足を入れる。自分の足にすぐに馴染み始めるスパイク。懐かしい感覚に、鼻先がツンと痛む。
「はぁ……。切り替えろ」
自分に言い聞かせるように小さくそう言って、ゆっくりとベンチから立ち上がった。
視線を上げた先にいるのは、もうすでに準備万端の宮坂。ボールを足の裏でコロコロと転がしている。
「あ! 準備できた? じゃあ、行っくよ~! それ!」
宮坂がフルスイングでボールに衝撃を伝える。宮坂の足から放たれたボール。そのボールは、少し離れた所にある児童用の遊具に向かって飛んでいく。
「ごめ~ん!」
宮坂の謝罪の言葉が聞こえる中、俺は異様な回転のかかったボールをコントロールして、足元に落ち着かせた。
「おぉ~! 凄い」
宮坂の真っすぐな想いを聞くと、つい頬が緩んでしまう。
「行くぞ~」
宮坂が止められるくらいの優しいボールを蹴る。コロコロと地面を転がっていくボールを止めるべく、宮坂はボールを上から押さえつけるように足を下ろす。初心者あるあるだ。止める、と聞くとボールを押さえつけようとする。これが止まった例を、僕は数回しか見たことがない。
案の定、足を掠めることなく宮坂の後方に転がっていくボール。
「あれ?」
信じられないというような宮坂の表情。その顔を出来る宮坂を、僕は信じられない。
まるで小学生とサッカーをしているみたいだ。パスの質も、トラップも、一つ一つのプレーへのリアクションも。全てが純粋で、幼稚で、可愛らしくて、とても愛おしかった。
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