第40話 子供っぽい

あまりに唐突かつ予想外の出来事に、つい素っ頓狂な声が漏れてしまった。

「どうして?」

心を平常心に戻して、いつものように静かに聞く。

「それは、見てるだけじゃ分からないからだよ。サッカーの楽しいところも、辛いところも、難しいところも。全部ぜんぶ知りたいなぁって思って」

フワフワした声で、のんびりした笑顔だけど、言葉だけは真面目にそう言ってくる。経験したことはないが、こういう時の宮坂には何かしらの作戦がある。とは思いつつも、本気でそう思っている可能性も捨てきれないので、

「なんでそんなこと知りたいんだよ」

少しそっけなく尋ねると、

「そうしたら、千冬君のこころにも寄り添ってあげられる気がしたから」

宮坂はそう囁くように言った。

 正直、胸がドキッと跳ねた。初めて誰かに、僕の気持ちを分かってもらえたような気がしたから。それに、今目の前にいる宮坂が、テレビに映るしょーもない女優やアイドルなんかよりも全然、可憐に見えたから。

「どうせ、部に戻すのが目的なんだろ?」

この気持ちに一旦蹴りをつけて、本来聞くべきことを聞く。

「げ。バレてた……」

このとき、嘘でも「違う」と言えばいいのに。嘘を吐けない宮坂が、すごく愛おしい。

「で、今回の魂胆は?」

そう言って、目の前にある茶を啜る。

「千冬君も、ボール蹴ったらサッカーしたくなるかなぁ、なんて」

想像していた通りの答えを、おどけたように笑いながら言ってくる。

「ボール蹴ってもやりたくなんかならないよ」

「なる!」

冷めた言い方にムキになった宮坂が語気を強めてそう言う。

「ならない!」

いつも通り静かに返すのがベストなんだろうが、どうしてかこの時の僕は宮坂と同様にムキになって、子供のように返した。

「じゃあやってみようよ!」

「いいよ、やってやるよ!」

ムキになっている僕は、段ボールが手前にあることも気にせずに中からボールとスパイクを取り出して部屋を出た。

「ちょっと出てくる」

リビングの扉越しにそう言って、僕は宮坂を連れて家を出た。

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