第39話 純情可憐

「茶はよし。菓子は、適当でいいか」

のんびりと、籠の中のお菓子を見繕って小さく息を吐きだした。

「あんた、部屋戻らなくていいの?」

すごくのんびりしている僕を見て、姉貴が聞いてくる。

 戻らなくちゃいけないよ。確実に、宮坂は押し入れを開けているだろうから。だけど、宮坂になら見られてもいいのかもしれない。そんな思いが、心の片隅に引っ掛かっていて、僕はそこから少し時間を空けてから自室に戻った。

「お待たせ」

扉を開けた音とほぼ同時に、押し入れが締まる音が部屋に響く。

「見たろ?」

全然怒っていないけど、怒っているように聞く。

「み、見てないよ?」

戸を閉める音も聞こえたし、段ボールを引きずっているような音もしていた。なにより、今の返事が分かりやすく嘘を吐いていると伝えている。だけど、

「気のせいか」

と、事をうやむやにして宮坂の前に粗茶を差し出した。そのとき、宮坂は安堵からか小さく息を吐きだした。

「で、なんで来たの?」

宮坂に対面するように座ってすぐに、宮坂に聞く。これまで、部活のない休日は家に来なかった宮坂だから、今日は何か意味があって来たのだろう。

「そそ! で、今日は千冬君にお話があってね?」

チョコレートクッキーを美味しそうに頬ばりながら、片手間ぐらいに言ってくる。この感じを見るに、大した用ではなさそうだ。

「で?」

ぶっきらぼうに、興味もなく聞き返す。すると、宮坂はキラキラした笑顔をまっすぐ僕の方に向けて、こう言った。

「千冬君。私にサッカーを教えて!」

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