第38話 想い出

「もう、良いよね!」

千冬君が階段を降り始めた足音を聞いて、私は勢いよく押し入れの戸を開けた。奥の方に見える大きな段ボール箱。あの中に千冬君がさっき言ってたものが詰まっている。私は、どうしても中を見てみたくなって、どうにかこうにか段ボール箱を運び出し、ゆっくりと箱を開けた。

 段ボールの中には、宮坂君の想い出がいっぱい詰まっていた。一番上にあったのは、丁寧に折りたたまれた海外選手のポスター。どのポスターを見ても日焼けしていて、微かに色褪せている。


 ――やっぱり大好きじゃん!


 その下にはトロフィーや楯、賞状などなど。これも全部、傷がつかないように丁寧に梱包されている。ばらばらになっちゃってるのもないし、ほこりがかぶっているのもない。

 さらにその下には、中学生の時だと思われる千冬君と、その時のチームメイトの写真があった。全員、明るい笑顔でとても嬉しそう。でも、その中でも一番、真ん中でサッカーボールを大切そうに抱えている千冬君が一番、輝いてる。


 ――こんな気持ちが、すぐに色褪せるわけないよ。

 ――そんな気持ちでサッカーしてたら、全国優勝なんかできないよ……。

 ――千冬君。今でも、サッカーが大好きなんだよね……。だけど、元に戻るのは大変なんだよね。


 千冬君の気持ちが、なんとなくだけど分かる。私は、こんな壮絶な経験をしたことがないから、千冬君が思っていることと私の考えてることが一致するかは分からない。だけど、これまで見てきた千冬君のを見ていたら、千冬君が、今でもサッカーが大好きなんだっていう事だけは、まっすぐに伝わってきた。


 ――千冬君。絶対に連れ戻すからね!

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