第36話 客人

「部活行こ!」

「行かない」

定型になりつつある会話。いつもなら「そっか」と言って笑顔で学校に向かうのだが、この日はなぜかインターホンの前から動かない。それに、いつにもましてニヤニヤと笑っているのが妙に気になる。

「わかった! でも、今日は部活ないからさ~ぁ。お家、上げて?」

甘えるような声で、なんと図々しいことを。断ろうと口を開くと、

「どうぞ。上がって~」

姉貴が横から割って入ってきて僕の口をしっかり塞いで、愛想良く返した。

「やった~!」

画面越しに宮坂がピョンピョンと嬉しそうに跳ねているのが見える。

「姉貴! 何すんだよ!」

通話を切って怒りを露わにすると、

「毎日毎日、家まで来てもらってるんだから。上げてあげなさい」

冷静な口調でそう言って、さっきまでいたダイニングチェアの上に戻って行った。

 ここで一つ疑問。僕は宮坂に対して「迎えに来てくれ」などと頼んだ記憶がない。むしろ余計なお世話で、お節介をかけられている立場なわけだ。だから、迎えて来てもらってるという言葉には大きな語弊があるし、勝手に来ている宮坂を僕が家に上げる必要があるのかどうなのか。正直、わからない。

 不満を心に募らせながら、姉貴が返事をしてしまったから仕方ないのだと割り切って、ため息を零すのと同時に扉を開ける。

「どうぞ……」

「お邪魔しま~す!」

宮坂の大きな声は、玄関から始まって廊下を通り、突き当りにあるリビングにまで簡単に到達した。

「は~い」

リビングから顔を覗かせた姉貴。学校でクールキャラをつけているから意味はないと思うけど、良い姉感を装って軽やかな声で返事をした。

「千冬。部屋行って」

小声で姉貴に促されたところで

「いや、リビングで!」

とすぐに言い返すけど、能天気な宮坂は

「やった~! 千冬君のお部屋だ!」

と一つの単語を聞いて、幼稚園児のように大はしゃぎしている。

「わかったよ……」

ハイテンション宮坂と、姉貴の静かな圧力に圧されて、僕は渋々階段を上り始めた。

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