第29話 冬休みの朝

 僕の生活から部活がなくなったすぐ後、冬休みという期間に突入した。この日まで欠かさずに家に来ていた宮坂も、この期間までは流石に家に来ないだろう。

 そんな風に気を抜いていると、朝の七時。突然、家のリビングに鬱陶しいインターホンの音が響き渡った。

「はい?」

姉貴が出ると、スピーカーから

「橋本君! 部活行こう!」

そんな声が聞こえてきた。姉貴はそれを聞いて、インターホンの前を俺に譲りスクールバッグを肩にかけて準備を始めた。

 インターホンの小さな画面の奥にある地球を照らす太陽のような笑顔。直射日光よりも鋭く、眩く僕の目に飛びこんでくる。

「行かないよ」

まだ寝癖も直していない。そんなだらしない格好をしたままの僕は、小さく呟くように返す。

「そっか! それじゃあ私は行ってくるね! バイバ~イ」

俺の返事を聞くと、宮坂は表情一つ変えないで眩しい笑顔のままインターホンに向かって手を振って学校の方に走って行った。

「はぁ……」

鬱々とした気持ちを吐き出すようにため息を吐くと

「部活。戻らないの?」

母が心配げな表情を浮かべて聞いてくる。

「なんでそんなこと聞くんだよ」

さっきの苛立ちもあって、少し強い声で返してしまう。

「宮坂さん。毎日来てくれてるでしょ? 一回くらい顔出すとかしてあげたらいいのかなって……」

母は弱々しくそう言って目を伏せる。母も、姉貴と同じように僕にサッカーをさせたいんだろう。どうしてそんなに僕に期待しているんだろう。僕がプロになる日なんて来ないのに……。それに、部に戻ったところで、


 ――みんなに合わせる顔がないよ


そんな思いが湧き上がってきている時、

「いってきます」

姉貴がそう言ってリビングの戸を開ける。

「いってらっしゃい」

母の柔らかい声を聞いて、姉貴は小さく微笑んで部活に向かった。

「冬休みの課題増えたから、やってくる……」

「そう……」

僕は、寂し気な母から逃げるようにして自室に向かった。

「なんだよ、母さんまで……」


 ――僕の気持ちも知らないくせに……


僕は、ぶつけようのない怒りを胸の奥にしまって黙々と勉学に励んだ。

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