第26話 純粋無垢
「待て~ぇ!」
慌てた様子の宮坂が、勢いよく僕の前を通り過ぎて行く。
「あいつバカだな……。てか『また明日』とか言っといて放課後も来てんじゃん」
少し時間を空けて目の前の階段を降りる。もうどこにも、あの鬱陶しい宮坂の姿はない。
昇降口で靴を履き替えて外に出ようとした時、
「見~つけた!」
下駄箱の影から、宮坂がひょっこりと顔を覗かせた。
「さっきはよくもやってくれたね~。だから、お返し!」
幼稚園児のようにケラケラと笑う宮坂が、どういうわけか少し愛おしく思った。
「そうか。してやられたな。じゃ」
朝、空に浮かんでいた太陽のような笑顔を浮かべる宮坂の隣を、真っ暗な雨雲のような顔で素早く通り過ぎる。
「待ってよ! 部活、行こうよぉ」
ねだるように首をかしげる宮坂。その姿が、中学生の時に父からお小遣いを貰おうとしている姉貴の姿と重なって、つい笑いそうになってしまう。
「行かない。それよりさ、早く行かないと姉貴に怒られるよ?」
時間に余裕はあるはずだが、頭に浮かんだ姉貴の顔から作られた宮坂が動かないわけない偽りの情報を伝えると、
「ほんとに?」
疑り深く聞いてくる宮坂の顔に、真剣な眼差しで頷いて見せると
「それは大変だ! じゃあ、また明日ねっ!」
宮坂は完全に僕の嘘を信じて、慌ただしくグラウンドの方に駆けて行った。
「純粋だな。マジで……」
ここまでくると呆れを通り越して、少し申し訳なってくる。けど、そんなことは関係ない。
僕は小さく笑みを零して、家路についた。
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