第23話 恐ろしい人

 朝。ルーティンに近い行動を取って玄関の扉を開ける。扉を開けた瞬間の激しい北風。毎日のことながら、冬のピリピリと肌を刺すような寒さが嫌いになる。

「はぁ……」

塀に付けられている腰ぐらいの高さにある扉を開けると、

「おはよう! 橋本君!」

夏の日差しによく似た光と熱を感じた。声のした方に振り返ると、そこには満面の笑みを浮かべた宮坂の姿があった。

 ――マジで来るのか

ただでさえ憂鬱な毎日なのに、それに鬱陶しいまでに明るい女子が加わった。また溜め息が溢れそうになるのを堪えて、一瞬で踵を返して学校までの道のりを独りで歩き出した。

「ね~ぇ。おはよう!」

この調子だと、学校まで永遠と挨拶が続きそうな気配があったため

「おはよう」

とぶっきらぼうに小さく返した。こんなテンションの低い挨拶をされたのに、宮坂は眩しい笑顔を保ったまま、僕の隣をすごく楽しそうに歩く。

「ねぇねぇ? 私ね、マネージャーになってからサッカーのこと勉強し始めたんだけどぉ。オフサイドってな~に?」

小学生にでも話しかけているかのようなゆったりとした口調に、変に伸ばされる語尾。少し癪に触る。

 そんなのは置いておいて、一年近くもサッカーの勉強をしてオフサイドが分からない。それは、僕からしてみれば勉強をしていないのと同等だ。マネージャーとしての職務怠慢だ。

 いつまでも答えを待つようにして向けられる視線。そこまでされると、こっちも申し訳なさを感じてしまって、

「姉貴に聞けよ。姉貴なら知ってるから」

さっきと同じようにぶっきらぼうに答える。だけどそんな僕に宮坂は

「あ~! その手があったか!」

右手の掌の上に左手の拳をのせて、楽しそうな声で返事をした。ここまでくると、底なしの明るさを持つ宮坂が、少し恐ろしく思えた。

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