第22話 将来の夢

 大して味のしない夕飯を食べて、風呂に入り、そのまま自室に直行した。前まで賑わいを見せていた壁は、何回見ても真っ白で、僕自身をサッカーというものから引き離してくれているように感じる。

「プロ……か」

姉貴のあの言葉が、いつまで経っても心の真ん中にぶら下がっている。

 僕が、幼い時に何度も何度も姉貴にそう言っていたことを思い出す。

「プロになんて、なれるわけない……」

僕は、真っ白な天井に吐き捨てるようにつぶやく。

 僕がどうして中学の時に来たオファーを全部蹴ったのか。理由はすごく単純。自分よりも実力のある選手を見るのが怖かったからだ。

 こんな意気地なしがプロになんてなれるわけがない。

「姉貴はずっと、信じてくれてたんだな……」

僕がとうの昔に諦めていた夢を、姉貴は今日までずっと信じ続けてくれていたんだと思うと、姉貴をバカにするいらない気持ちと一緒に、やわらかい嬉しさがふわっと胸の奥から込み上げてきた。

「戻る……」

そんな思いが頭に浮かんで、言葉となって外に溢れる。

「ないない!」

魔が差したこの感情にけじめをつけるために、僕は首を大きく横に振ってベッドに横になった。

「もう寝るか」

視線の先にある白無垢な天井。

「ヴィトール」

そこに、あの人の華麗な姿はない。僕の目標だった人。視界に入る、少し翳った天井を見つめていると、いつのまにか眠りについていた。

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