第20話 冷酷

「ただいまぁ……」

力なくそう言いながら玄関の扉を開ける。やけに扉が重く感じたのはきっと、この後千冬と会うのが怖いからだろう。

「おかえり」

母がいつもの様子でリビングから出てくる。けど、すぐに表情を変えて、

「美波。今日は部活がなかったんでしょ? 帰るの遅くない?」

心配そうにそう聞いてくる。

「いや。部活はあったよ」

そう言った途端、さっきよりも肩が重たく感じた。だって、

「じゃあ何で千冬は帰ってきてるの?」

そうやって母が聞いてくるのが分かってたから。

「それは……」

正直に言うべきなのか、隠しておくべきなのか。私には決められなくて口ごもっていると、二階から何も知らない千冬が夕飯を求めて降りてきた。

「千冬。どういうこと?」

母はすごく動揺した様子で、肝心なところを省いて千冬に聞く。

「どうって、なにが?」

当然、千冬は聞き返す。だけど、いつも察しの良い千冬は何について聞かれているのか、もう気づいているんだろう。

「なにって。サッカー部のことよ」

母の少しの望みを含んだような小さな声に、千冬は冷たい声で

「あ、俺さ。サッカー部辞めたから」

そう言い放った。千冬から放たれたとは思えない、冷徹で淡白な声。母は驚きのあまり、声も出せずに呆然と立ち尽くしている。

「そういうことだから。明日からは弁当は昼の分だけで大丈夫」

「そ、そうなの……」

千冬の一切乱れない態度に母は淋しそうにそう言って、リビングの扉の奥に消えて行った。

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