第17話 まっさら


 瞼の裏に映る、青々とした天然芝のグラウンド。周りには、たくさんのサッカーファンや応援団の姿。すぐそばには頼もしい仲間達。目の前には、紅のユニフォームを堂々となびかせた対戦相手。ベンチには監督やコーチ、そして俺たちを支えるバックアップメンバー。それに加えて、顔に靄がかかっている一人の女子の姿――。


「誰だ、アイツ……」

ゆっくりと目を開ける。一番最初に飛び込んでくるのは、天井に貼られた赤紫と紺のユニフォームを身に纏うヴィトール選手のポスター。

「もうサッカー部でもないし、外すか……」

一階に降りて潰された段ボールを幾つか抱えて自室に戻る。そして崩された段ボールを一つずつ元の形に整形して、部屋の壁を埋め尽くすレジェンド選手たちのポスターや、これまでに貰ったメダルや楯、トロフィーなどを乱雑にしまい、そのまま押し入れの奥底へと封じ込めた。

「これでよし」

なかなかの重労働でかいた汗を服の袖で拭って自分の部屋を見回す。そこには、あまりに殺風景な風景が広がっていた。部屋の壁はこんなにも白かっただろうか。記憶に残っていない程、この壁はあの鬱陶しい色に封じ込まれていたのだと思うと、なんだか淋しい気持ちになる。

「まぁ、勉強でもするか」

まっさらになった自室の中で、僕は差し色程度の茶色の机に向かって、学校から出された宿題をテキパキとこなした。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る