第15話 宣言

 ――私が出るよりも早く下校してるはずなんだけどな……

そんなことを考えながら、曲がり角を勢いそのままに曲がると、ちょうど来た通行人の人と強くぶつかってしまった。

「痛っ」

激突した人が、あまりにも体の強い人で私だけが吹っ飛んでしりもちを付く。

「大丈夫ですか……?」

「ごめんなさい。ちょっと、急いでて……」

「って、宮坂?」

差し伸べられた右手を掴んで視線を上げようとした時、突然に私の名前が呼ばれた。

「あ! 橋本君! 見つけた~!」

びっくりな幸運を目の前にして、つい不躾に彼の顔に人差し指を向けてしまう。

「見つけたって。なんで宮坂がここに?」

橋本君は、自分の家を教えていないはずなのに、とすごく驚いたような、何か勘ぐっているような、そんな眼差しで私を見る。

「う~んとね。え~っと」

私も私で、橋本君からの初めての質問についつい舞い上がってしまって、上手く伝えたい言葉が出て来ない。

「サッカー部に引き戻しに来たのか?」

私の考えを見事に見抜いた橋本君が低い声でそう聞いてくる。

「そう!」

そんな橋本君とは対照的に、私はとびっきり元気な声を出す。

「それでさ、これから学校に戻って練習しようよ! 前みたいにさ~ぁ」

私にできる精一杯の笑顔を見せて橋本君に提案する。語尾は緊張しているせいなのか、舞い上がっているせいなのか、不自然に伸ばされて母音で切れた。

「ごめん。俺さ、戻る気ないから」

橋本君の口から放たれた言葉は、いつにも増して冷たくて、ものすごく掠れていた。

「昨日の事ならさ、気にすることないって。みんな、橋本君のせいだなんて思ってないよ?」

笑顔を保ったまま、みんなの想いを橋本君に伝える。だけど橋本君は、

「表向きにはそう言うよ、誰だって。でも、心の中では俺のこと戦犯だって思ってるんだよ……。そんなやつは、チームを離れたほうが良いだろ?」

橋本君の声は淋しそうに、悲しそうに、苦しそうに震えていた。問いかけの為に向けられた微笑みも力がなくて、とっても辛そうに見える。

「そんなこと……。みんな本当に……」

訴えかけるように言うけど、

「ここまで来てもらって悪いんだけど。戻る気ないから、俺」

彼は冷たく言い放って、私の横をサッと通り過ぎて行った。

「ま、待って!」

どんなに大きな声で叫んでも、橋本君に私の声は届いていないように見える。

「明日も来るから! 明後日も、その次も、その次の日も! 橋本君が戻るって言うまで毎日来るから!」

私は橋本君のそんなガードを突き破るくらいの大声で、彼の背中に向けて強く強く宣言した。

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