第14話 奔走
飛び出してすぐに気づいたことが一つ。それは私は、橋本君の家を知らないということ。それに加えて思い出したことが一つ。私は、これまで一度も橋本君と話をしたことがない。というか、何度も会話を試みたけど、クールで一所懸命な橋本君は聞く耳を持ってくれなくて、基本、一方通行で会話が終わってしまっていた。ということは今日も……。
「んー! たぶんこっち!」
そんな弱音はどこか遠くに蹴り飛ばして、私は直感に任せて分かれ道を曲がる。
「次はこっち!」
と自分の感覚だけを信じて、右折、左折、直進を繰り返していると『橋本』という表札が出ている一軒家の前に辿り着いた。
「ここ、かな……」
『橋本』なんてよくある苗字だから、ここが橋本千冬君の家なのかは分からない。けど、少しの期待を繋ぐために、私は恐る恐るインターホンを鳴らした。
ピンポーン、という音のすぐ後に『は~い』と明るい声がインターホンのスピーカー越しに聞こえてきた。
「あの、こちら橋本千冬君のお宅ですか?」
私の問いかけに、インターホンの奥の人は
「そうですが。どちら様?」
と疑いを抱くような声で答えが返ってきた。
「あ、えっと……。友人の宮坂葵です」
果たして、友人と名乗っても良いものだろうか。そこを躊躇ってしまって言葉が詰まったけど、思い切ってそう言ってみると
「あ、千冬のお友達ね。ごめんなさいね、千冬、まだ帰ってきてないの」
明るい声に続いて、申し訳なさそうな声が返される。
「え? あ、そうですか」
「ごめんなさいね」
「いえ、ありがとうございます。失礼します」
私はインターホンに向かって勢いよく90度に腰を折って、再び橋本君探しに奔走した。
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