第13話 衝突

「笠井。お前、なに笑ってんだよ」

鮫島先輩の視界にもその様子は入っていたらしく、鋭い視線と強い声が笠井先輩に向けられる。

「なにって? そんな焦ることもないだろ。このチームには俺が居る。アイツなんかいなくてもなんとかなる。てかなんだよ。オウンゴール一つで退部って。これまで自責点はしたことないってか? お高く留まりやがって……。んな豆腐メンタル、こっちから願いさげだろ」

笠井先輩が橋本君を嫌悪する気持ちは分かる。素人の私にも分かるくらい、二人には実力差があるから。だけど、そんな言葉を使う必要はないんじゃないか。いくら嫌いでも、チームメイトが一人欠けたら理由は何でも心配するのが仲間なんじゃないのか。

 胸の奥からゴォーと何かが込み上げてくるのを感じる。

「オウンゴール一つ? お前、それ本気で言ってんのか?」

鮫島先輩の怒りが頂点に達して、声が深く、低くなる。唸るような声、突き刺すような鋭い視線。まるで獲物を捕らえようとするオオカミみたいだ。

「だってそうだろ? 三年の先輩たちはラストだったかもしれねぇけど、俺らにはあと一年、アイツにはまだ二年も――」

笠井先輩の嘲笑気味の声を遮るように、鮫島先輩は笠井先輩の胸ぐらを掴んで声を荒げた。

「バカ野郎! 千冬は、三年の先輩方が最後だったから責任感じてんだろ! あんなプレーした自分がいない方がチームは上手く回る。そう思って退部届出したんだよ、あいつは! んなことも分かんねぇのか!」

「んだと!」

「やんのか!」

完全にスイッチが入った二人の先輩方。一触即発の空気に、武将面の三好監督すら立ち入れない。違う。立ち入ろうとしないというのが正しい表現なのかもしれない。互いの想いをぶつけ合って、ぶつかり合って。それが今のこのチームには必要なことだと、監督は判断したのかもしれない。けど……。


 ――こんなの……。こんなの間違ってるよ!


胸の中に込み上げてきていたものが遂に爆発して、こころから言葉が飛び出した。

「先輩! 私、橋本君の家いってきます!」

「行ってどうすんだよ」

鮫島先輩の冷徹な声が、全身を凍り付かせる。だけど、私のこころの中の炎はその氷すら溶かしてしまう程に燃え盛っている。

「連れ戻してきます!」

偽りのない真っすぐな言葉に先輩は、

「それはさすがに」

と逃げ腰になっている。私は、そんな情けない鮫島先輩の声なんか無視して一心不乱にグラウンドから飛び出した。

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