第12話 動揺
その日の部活にて――。
「今日、橋本千冬から退部の申し出を受けた」
監督のその一言に、私を含め監督を円形に囲う選手全員に動揺の色が見えた。
『なんであいつが……』
『まさか、昨日のこと気にして……』
動揺の波が徐々に大きくなっていき、チームがざわつきだす。無理もない。だって、橋本千冬という選手は、誰が見てもこのチームのエースナンバー10を背負う、エースストライカーなのだから。
「先生、千冬はどうして?」
昨日付で主将に任命された鮫島先輩が、鬼気迫る表情で先生に詰め寄る。
「わからない。だが、昨日の自責点が関係しているのは間違いないだろう……」
先生の声が重く、苦しそうに聞こえる。こんなに狼狽した表情は初めて見た。
「あいつ……」
そう言った鮫島先輩の拳が強く、強く握られる。憤怒なのか悔恨なのか。先輩の真意は分からない。
「おい! 千冬に連絡は着かないのか!」
苛立ちを隠すことなく、先輩は橋本君のお姉さんの美波先輩を鋭く睨みつける。
「さっきから着信してるんだけど、全然応答してくれなくて……」
美波先輩の震える声と淋しげな表情。昨日、試合が終わって一番近くにいたのは美波先輩。自分がもっとこうしてればって自分を叱責してるのが強く伝わってくる。
チーム全体が焦りや、苛立ち。そんな辛い空気に支配されていく中、オフェンス陣。特に、橋本君とポジションがかぶる先輩たちは、嬉々とした様子でチームの輪を見ている。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録(無料)
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます