第11話 一枚の紙きれ
「あの、三好先生」
書類をまとめて教室を出ようとする三好先生を僕はひ弱な声で呼び止めた。当然、先生は振り返って僕の方をまっすぐ見据える。白髪交じりの髪に、クイッと吊り上がった目尻。そしてグッと下がった口角。この顔を見る度に、どうしても身体が委縮してしまう。
「どうした、橋本」
普段ですら十分声が低いのに、今日は一段と低く聞こえてくるのはいつも以上に僕が、先生を恐れているからだろうか。それとも先生が、俺に怒り心頭だからだろうか。多分、後者だと思う。だって直前の練習試合では五対〇という大勝をおさめていた相手に、過去最強と謳われていた布陣で臨んでの敗戦。その敗因は多分に僕にある。怒りを感じない人間はいないだろう。
「あの、これ……」
僕は右手で強く握っていた退部届を先生に提出した。
「橋本、本気なのか?」
「……はい」
――こんな戦犯、いなくなった方がチームは上手くまとまるだろう。
「昨日の事を気にしているのなら、それは間違いだ。あれは単なるアクシデントだ」
「はい……」
――本当はそんなこと思ってないくせに……。
「お前には才能がある。ここで枯らすにはあまりに勿体なさすぎる」
「すみません……」
――才能? そんなものあるわけないだろ。調子いいこと言うなよ。自分に才能がないことなんて、自分が一番、よくわかってる……。
「受理してください」
震えた声に強い意志を込めて三好先生に伝える。三好先生は眉間に深い皺を作り、しばらく考えた後、
「……わかった」
そう小さく零した。何をそんなに考えることがあったのだろうか。戦犯は追放。当然の理だろう。
「ありがとうございます」
僕は小さく頭を下げて教室を後にした。
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