第10話 感情

 次の日の学校。僕は、無機質な廊下に視線を落としながら教室に入った。前を向くことなんて到底できやしない。顔を上げれば、クラス中の視線が真っ直ぐ僕に向けられて今よりもっと、こころを辛く、苦しくしてしまうと思うから。僕は、木目調の古ぼけた床を見ながら自分の席に静かに腰を下ろして、すぐに机に突っ伏した。

 ただつまらない音だけが聞こえてくる真っ暗な空間が、この日はやけに心地よく感じられた。

 それから十数分後に始まった授業。今日はどの言葉も頭に入ってこようとしてくれないので、とりあえず黒板に並べられた文字だけをそっくりノートに書き写して、有り余った時間は明朝体の文字が書き連ねられている教科書とにらめっこをしていた。勝敗が付くことのない、実につまらない戦いだった。


「それじゃあ、気をつけて帰れよ」

僕の担任兼サッカー部の顧問を務める三好先生の少しかすれた声を聞いて、今日一日の学校生活が終わったのだと気づいた。僕はゆるりと席から立ち上がり、帰りの支度を始めた。

 引き出しに入っている最後の教科書をしまい終えた後、カバンの中にあるクリアファイルから一枚の紙きれを取り出しふわりと机の上に置く。

「これでいいんだよな……」

自分の汚い字で書かれた自分の名前を見てボソッと零す。サッカーに対する情熱とか愛情とか、そういう想いは僕の心の中にはもうない。僕はもう、サッカーが嫌いになったんだ。そう心の中で強く唱えてから、僕は席を立って教卓の前に立っている三好先生の方へと足を進めた。

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