第2話 ホイッスル
後半の46分。得点は0対0。僕たちが優勢に試合を運んでいた中での、相手チームのコーナーキック。僕のマークマンは、伝統の十番を背負うエースの西園寺。この攻撃を防げばPK戦となる。
キッカーの伊達がボールをセットして顔を上げる。そして、エースの西園寺と視線を合わせる。確実にここを狙ってくる。マークを外さないように西園寺の動きについて行き、審判に止められない程度に身体をぶつける。
キッカーの伊達が助走を始める。芝を蹴る柔らかな音。最後の一歩は地面を押しつぶすような低い音を響かせ、すぐ後にボールを蹴る音が聞こえてきた。ボールはゴールに向かうような軌道で僕の頭上めがけて飛んでくる。西園寺は確かに俺の背中にいる。西園寺に良い形で飛ばせないように手を使いながらめいっぱいの力で高く跳ぶ。ヘディングの最高到達点のところで威力のあるボールが確かに、僕の頭に当たった。確実に競り勝った。
「よっし――」
歓びの雄たけびを上げようとしたその時。俺の声を掻き消さんばかりの
「よっしゃ~!」
という相手チームの声がピッチ上に響いた。
――どうして……
――守り切ったはずじゃ……
周りを見ると、先輩達は苦しそうに唇を噛んで視線を芝生の上に落としている。
僕は間違いなく競り勝った。だって、俺の頭にあのボールは当たったのだから。そう思って相手陣の方に視線を向けるが、どこにも試合球の姿はない。
――どこに……。
その時、嫌な予感が頭に沸き上がり背筋に冷たいものを走らせた。俺は、その嫌な感覚を消すためにゆっくりと自陣ゴールの方を振り返る。
探していた試合球は、ゴールラインの内側の緑色の芝生の色にポツンと乗っかっていた。
――まだ時間は……
絶望に打ちひしがれている時間はない。切り替えて自陣ゴールに走ろうとしたその時、無情にも試合終了を告げるホイッスルの音が会場全体に鳴り響いた――。
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