第1話 想い

 無感情に放たれるホイッスルの音に合わせて礼をして、勝者の明るい笑顔を見送る。相手方はこっちの気持ちも知らずに『ナイスプレー』『最後は惜しかった』と温かい言葉を掛けて僕の前を去って行く。

 両チームの握手が終わり、相手方、そして自分たちの応援席にあいさつに行く。

「ありがとうございました」

「……っした」

怖くて顔を上げることができない。前を向いてしまったら、全員の非難の視線が、言葉がストレートに突き刺さる、そう思ったから。

 勝者の歓びの声を聞きながら戻るロッカールーム。その空間には重苦しく張りつめた空気が流れている。

 聞こえてくる三年の先輩方のすすり泣く声。互いの健闘、そしてこれまでの努力を称え合う声。後悔を漏らす声も聞こえてくる。

 そんな三年生たちを見て、強く熱い闘志を燃やす二年の先輩たち。形はない、けれど確かにある何かをつかみ取る一年。どちらからも『先輩方の無念を俺たちが!』そういう強い意志を感じる。

 そんな空気がプレッシャーとなって、俺の背中に重たくのしかかる。

「来年こそ、全国、行けよ……」

主将が優しく、俺の肩を叩く。主将の声も、肩に乗せられた右手も震えている。その震える手からは『悔しい』『もっと、サッカーをしていたかった』そんな悔恨の気持ちが強く感じられた。

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