1-3 回想ー召喚時②
静寂が過ぎった直後――騎士達がどよめいた。あれだけ無反応だったのに、互いに顔を見合わせて動揺を示している。女子高生のときとは対象的な驚き方だった。
「こればっかりは才能やで、秘めとる奴がおるのは当たり前といえば当たり前のことやけど……まさかローランを超える奴が出てくるとは」
なぜ盛り上がっているのかさっぱりわからないが、どうやら自分の数値が異様に高いということだけはわかる。
源四郎が手を振ると、騎士は皆と同じように槍を突き付けてくる。待遇は別に変わるわけではなかった。困惑の中、誓道もまた廊下の奥へ向かっていく。
途中、斎藤と目が合った。彼はどこか動揺した表情だったが、その目は露骨に睨みを効かせていた。
緊張と不安と妙な興奮を抱えながら歩いて行った先には、薄暗いホールが広がっていた。天井には頼りない光源があるだけで、ホールは全体的に薄暗い。中央には円形の台があり、先に移動していた人たちが一列に立っていた。
「お前も並べ」
騎士の声に促された誓道も台に近寄り、そこで息を呑む。
台の前には人間とは違う者達がいた。腕が羽になっている女。表皮が植物のようになった男。豚の頭部を持つ男に、二足で立つトカゲや猫。
まさしく、モンスターと言うしかない存在が居る。
その中で一人だけ、人間とそっくりな存在がいた。絶世の美女というほどの整った容姿で逆に浮いているほどだ。しかし彼女の耳は人間よりも長く尖っている。さきほどの王と一緒だ。エルフという種族かもしれない。
台の上の人たちは異形の生物を前に緊張し、硬い表情で立ち尽くしている。皆、これからどうなるのだろう、という不安を隠しきれていない。
そんな中で、誓道の視線はある一人に止まった。
金髪ギャルの女子高生だけは、目の前のモンスターに臆さず堂々と前を向いている。気丈に振る舞っているのだとしても、この状況でああも曇りのない瞳をしていることが、逆に気になった。
(あの子……さっき、最低値だって言われた……)
少なくとも先程のやり取りからすれば、期待や希望を抱く要因はなかったはず。
しかし彼女の表情は、諦めた人間のそれではない。誓道はそのギャップに、妙に惹かれた。
(そういや名前とか、何も知らないな)
ここに居る人間はバスに乗り合わせただけの他人だ。斎藤ら知り合いと一緒に巻き込まれた自分のほうがイレギュラーで、何も知らないのは当たり前だった。
(でもあの子は俺の名前を知ってた)
どうしてかと考えて、すぐ思い至る。
この後に行われたのは選考会だ。FP値が高い順から名前を名乗らされ、さきほど測定された数値が読み上げられる。そこで12種族の誰かが手を上げれば、その人間が引き取られていく。複数手が挙げられた場合は、特定の種族が引き取っていた。後で知ったが、どうやら種族の中にも序列があり、高い順に優先されるらしい。
誓道の場合がまさにそうだった。FP値の高さから一番に名前を名乗って、数値が読み上げられるや否や全種族が手を上げた。しかし彼らはすぐに苦い顔で手を引っ込めた。最後まで手を上げていたエルフの美女が、他の種族よりも序列が高いため優先されたのだ。
女子高生が名前を知っていたのは、全員がいる場で名前を告げたからか。覚えていてもおかしくはない。
――なんだろう。時系列がごちゃ混ぜになっている。変だ。
違和感と共に気づく。これは夢だ。夢だから先のことを考えてしまっている。
「なんや、そないなとこにぼーっと突っ立って。はよせぇ」
背後から源四郎の声がした。ビクリとして振り返る。
「だが、このような儀式など、貴様には無意味であろう」
誓道は限界まで目を見開く。
そこに立っていたのは、エルフの王。
真紅の瞳が、侮蔑を込めて向けられている。
「能力の高さにつられて手に入れたが、とんだ役立たずだ。視界にいれるのも不快極まる――消え失せろ」
王が手を振ると、視界が暗転した。誓道はそのまま、暗い暗い穴の奥へと落ちていく。
***
「うああああああ!」
気づいたとき、自分の叫び声が聞こえた。
肩で息をする誓道は、開いた瞳孔で自分の居場所を確認する。穴、ではない。簡易的なベットの上に居るようだった。腰には布が置かれている。
(……ゆ、夢?)
誓道は両手で顔を覆う。早鐘のように心臓がドクドクと脈打っていた。
たぶん、夢だったのだろう。過去をなぞるような内容だったが、それにしても最後は突拍子もなく悪夢になった。
そんな夢を見てしまうくらい、自分の中でショックな出来事だった――そう思うと妙に納得もできる。
次第に呼吸を整えた誓道は、顔を覆っていた両手を下ろし、再び部屋を見回す。
「ここは……」
誓道が寝ているのは、ボロボロの部屋だった。室内の壁面は壊れているか、そうでなくてもひび割れている。天井も今にも崩壊しそうだ。寝ているベットも、少し動くだけでギシリと音を立てる。組み立てた木の箱に藁を敷いて、布を被せているだけだ。
このベットは自分のものではない。というか、自室なはずがない。
エルフ国を追放されて三日三晩さ迷った後、どこかの森に入ってしまったところまでは覚えている。
なぜ、こんなところで寝ているのだろうか。
「あ、起きてる!」
甲高い声にビクリとして振り返ると、部屋の入口に女性――金髪の女子高生ギャルが立っていた。
「やっと気がついたんだ。すっごい寝てたよ、丸一日くらい」
部屋に入ってきた女子高生は、水を張った桶を抱えていた。彼女はそれを床に置くと、水の中に入れていた布を絞って、渡してくる。
「顔拭いて」
「あ、は、はい」
誓道は布を受けとり、言われるがまま顔を拭く。冷たくて気持ちいい。生き返るようだった。
一息ついた誓道は、こちらを伺うように見てくる女子高生の姿を確認する。じっくり観察するまでもない。制服も金髪も、一緒に転移してきたときに見た姿だ。あのときよりメイクが薄い、というかまるでしていないようだが、違いはそれくらいだろうか。
「……こっちの世界に来たとき一緒にいた人、ですよね」
「あっ、覚えててくれたんだ? 記憶力いい方?」
あまりに強烈な個性と計測結果だったから覚えていた、とは言いにくい。
「いや……格好で」
「あー、そゆこと」
女子高生は自分で自分の格好を眺める。腰を振ったときに短めのスカートがふわりと舞った。
「目立つっちゃ目立つけどさー、こっち来てから人が着れる服とか手に入らないんだよね。他に人いないから、どこで買えるのかもわかんないし。ブラっちに言っても何もしてくれないし奥さんのマリアちゃんのは小さいし」
ぶつぶつと文句を言っていた女子高生はそこで、呆ける誓道に苦笑いする。
「ごめんね勝手に喋って。久しぶりに人と話せてテンション高くなってたわ、ダルかったっしょ」
「大丈夫、ですけど……あの、あなたは」
「ああ、名前! ほんと気が効かないねあたし」
頭をコツンと叩いた女子高生は、自分の名前を告げる。
「あたし、
「中村さん。俺は――」
「知ってる。
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