EP03 スキル発動!

 ──ウソ泣き。

 と直感的に悟る。

 なぜ理解できるのか。毎日隣で瞳をウルウルさせて意思を捻じ曲げようとする奴と過ごしているので、判断できるよう識別目が養われたのかも。


「わー、泣かないで」

「あの、お気を悪くしたらごめんなさい」

「いや違うんだ。ギルドのことを考えると不安でね……」

「ギルド」


 私がその言葉に反応すると、管理人さんは目尻をティッシュで拭いながらキラリと瞳を光らせた気がする。


「そのギルドってのに、私たちは入れるんですか?」レイは身を乗り出して聞いた。

「あぁ、君たちのようなドライバは大歓迎だよ」

「……運転?」「螺子回し?」


 ──私たちのような異世界からこの世界に訪れた転生者をドライバ、と呼ぶらしい。


 管理人さんはそう説明しながら、続けてギルドについても語り始める。この町には”君影”という名前のギルドが存在する。別に冒険するだけならわざわざギルドに参加は不要だけど、クエストの斡旋から報酬の提供、他にも諸々フォローがもりだくさんと、熱弁する。

 やっぱり圧が強い。

 さっきまで流していた涙はどこに消えたのよ。


「ただ最近は時代の流れなのかねぇ、ギルドに参加しない者も多い……。ギルドの運営は主に参加者の人数によって左右される。あたしはね、ギルドを運営して冒険者たちを応援するのがささやかながらの夢なんだ。しかし、このままだと次の査定に通るかどうか……」

「私たちが入れば、大丈夫なんですか?」


 管理人さんは静かに頷いた。

 まぁ、別に入らない理由は無い。けど、参加料が二人で10万EN、でも今だけ5万ENキャンペーンは流石に怪しすぎるから逆効果な気がするわ。


☆★☆★


「途中から管理人さんの熱意に感化されて涙ちょちょぎれたよ」

「飽きてたじゃない」

「わかった? だってなんか嘘っぽいんだもん」

「逆に怪しいわよね……。でも、いつもなら文句言いそうなのに、律儀に従ったのね」

「え、だってなんか断ったりしたら、じゃあ力ずくで、ファイアボール! とか言って魔法で脅してきたら怖いじゃん」

「名前ダッサ……。でも確かに──」


 レイの言う通り、未だに私はどこか地方の見知らぬ土地を訪れた感覚が抜けないけど、ここは……警察も存在しない無法地帯じゃない(多分)。誰もが親切で優しく助けてくれる、わけじゃない。自分の身は、自分で守る。


「でもやっっっっと手に入れたね~、ステータス!」


 レイは自分のスマホを掲げながらニヤリと嬉しそうに笑みを浮かべる。

 ギルドに加入すると、私たちのスマートフォンに新たなアプリが追加された。この世界ではインターネットに接続しないため、ただの板に成り下がっていたスマホだけど、私が毎日遊んでいたスマホゲームのブレストが、この世界で私たちの情報管理アプリに変貌した。今まで私が課金してきた記録が消えた? と焦ったけど、元の世界で保存されているとのこと。

 ギルドの情報から魔物図鑑、攻略wiki!? もあり、そして私たちのステータス画面も入っている。


「けど、平々凡々のクソザコ能力値は納得いかない! バグってるよ!」

「どうして?」

「だってここは突出したステータスがあるのがテンプレじゃん!」

「そうなの?」「そうなの」

「こ、こんな能力値見たことねぇ……って異世界人の腰ぬかせてぇよ……」


 レイはうがーっとうなりながらベッドで暴れる。


「けど、スキルは一つあったじゃない」

「あー、ね。でもこっちはマジでバグじゃん」


--------

スキル名:

傷を舐め繧∝粋縺?K譌・蟶ク逋セ蜷育黄隱樊焔繧堤ケ九$縺ィ縲√≠縺ェ縺溘?螢ー縺瑚?縺薙∴縺セ縺


説明:

閧後↓隗ヲ繧後◆逶ク謇九?諤晁??r隱ュ縺ソ蜿悶k縺薙→縺後〒縺阪k縲らイ倩?雜翫@縺ョ蝣エ蜷医?譖エ縺ォ蛻カ蠎ヲ縺碁ォ倥∪繧九?


--------


 私はスキルの項目に何も表示されなかったけど、レイには謎の文字列が表示されていた。

 チートスキル? とレイは喜んだけど、説明欄も意味不明な文字列が並んでいた。管理人さんにも調べてもらったけど、こちらの世界では解読不能、とのこと。


 部屋に戻った私たちは、早速レイのスキルについて調査を試みた。

 スキルは基本的には音声認識(慣れると考えるだけで発動できるとか)で発動するらしく、レイはスキル発動を試みるが、”傷を舐め”移行の発音がままならない。

 パッシブ系などのスキルの場合は、条件を満たすことで発動するけど、特に変わった様子は無い。


「う~~~どりゃ~~~!! うりぃぃぃぃ!!!」両手を伸ばしてレイは唸る。

「もう諦めなさいって」

「だって世界を揺るがすチートスキルかもしれないじゃん。知りたい、私の可能性を、知りたいよ……」


 部屋の隅で小気味いいダンスを続けていたけど、やっと諦めたのかベッドに戻った。そのまま流れるように私を抱きしめる。

 不意の抱きつきだったので焦る。

 ドキっと反応した私をあざ笑うように強く強く抱きしめる。なんかムカつくけど、レイのふわっと膨れる柔らかさ、それと汗ばんだ匂いが私の思考をどろっと溶かす。


「はぁ……。今日はもう辞める。けど明日こそ……きっと見つけてやる」

「明日からクエストを始めるのよ。そっちに集中しなさい。まずは町の道具屋と武器屋で色々買い揃えないと。ほら、もらった冒険初心者用の手順書によるとアイテムにも種類があって──」

「え~でも超初級クエストの薬草探しに準備とかいらんって」

「フラグよ、それ」

「ふふっ、フラグ立てまくっておいおいこいつ死ぬわって方が生き残……あれっ?」


 今度は何? とレイを見やると、レイはスマホを私に差し出してきた。


「見て見て! スキル名が光ってる! 発動してる!!!」


 確かにスキル名全体が滲むように光を纏っている。

 これは、発動、しているのかしら?

 そっとレイを見つめる。ニコッと微笑む。か、かわいい! 超とびっきりに可愛い美少女。顔が近い。大きな瞳に吸い込まれそう──。


「ねぇ、もっと他のところを観察して。なんか、角とか、翼とか、そういうのも生えてない?」

「……えぇ」


 レイは立ち上がり、私の前でくるくる回転した。……変化無し、超とびっきりに可愛い最凶の美少女。スタイル良すぎる。足が長い。腰のくびれがエグい。胸がでかい。顔は小さい。


「え~~、じゃあなんで……あれ、光が消えてる」

「何か今までと違う感覚とかある?」

「もしかして──」


 ちらっと私を見つめ、口元に手を当てて考え込む。


「何か思い当たる節があるの?」

「う~ん、まぁ。……サクラこっち来て」

「え、やだ」

「危なくないから。大丈夫、私を信じて」

「無理」

「ねぇ、痛くないから、ホントです、優しくします」

「怖い怖い怖い」


 レイに手招きされて近づくと、すっとその指が私の頬に触れる。

 な、なに?

 レイの細長い指先が、私の顔をすりすりと撫でる。

 ピリピリしたレイの寒気が、顔から後頭部まで一気に広がる感覚に意識を保つのがやっと。


「あ、光った」

「え?」

「離す……と、消える。今度は……髪触っていい?」

「どうぞ」

「ここも……。じゃあ次は、耳──」


 鼻、唇、瞳は辞めて、と手を払う。けど首を掴まれる。レイのピリピリした感触で首を掴まれると、首から下の神経がばっさりと切断されるような恐怖を味わう。

 怖い、けど嬉しい。

 ベクトルの違う二つの感覚が私の中でサイレンが鳴り響くように広がった。


「レイ……発動してるの?」

「うん、すっごい光ってる。なるほどね~。耳と同じくらい。え……待って……じゃ~あ、ここは~~~」


 むにゅっ。

 と、私の胸を突然掴む。


「ちょ、っと!?」

「え──光らない。おっかしいな~」


 更にお腹、続いて腰と指を走らせる。お尻に到達したところで思わずレイから離れた。

 けど、すぐにレイは私を追い詰めるように近寄った。逃げられない。また触る。スリスリと肘から手首を流れるように指が滑り、最後に私たちの指先が絡まる。

 ドキドキと高鳴る私の心音が指から吸い取られるように聞かれているはず。

 恥ずかしい、と嘆きつつレイに自身の内面を曝け出す感覚に妙な安心感を覚えた。


「はぁ、スキルの能力を完全に理解したつもりだったのに……。違うのかな~」

「なんで私の胸とか触るとわかるのよ」

「サクラが~私に触られて嬉しいところがわかる能力だと思ったの」



// 続く

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

異世界JK百合物語 八澤 @8zawa_ho9to

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ