第13話 今後の身の振り方、どうするんだ?

 * * * * *



 久しぶりに消耗した気がする。


「……ルビさん。久しぶりに全力出せたからってイキイキしすぎだと思うんですけど」


 しゃがみ込んで不満をぶつけてやると、私とは対照的にルビはすごくいい顔をしていた。


「君だって、楽しかったんじゃないか? まだ余力はあるだろうに」

「そりゃ、帰らなきゃいけないですからね。そのくらいの元気は残しますよ」

「動けないならおぶって帰るくらいしてやったんだがな」


 ルビのその言葉に、私は背負われて帰った記憶を部分的に思い出した。


 ――ルビさんの指摘のとおり、私の記憶、欠落してる?


「おふたりさんは相変わらずお強いことで」

「怪我人だったわりにはよく動けていたじゃないか」

「彼女が魔力を盛ってくれたから、その分は働いて返さねえとなって」


 オパールはそう答えて、私にウインクを飛ばしてくる。余裕があるな。


「で。全部倒せたわけだが、今後の身の振り方、あんたはどうするんだ?」


 ルビが尋ねる。

 事後処理班が到着するまではまだ時間がある。それまでにこの事態をどう報告するのか、考えねばならない。

 今回の件、オパールが関わったことで事態が悪化しているのは事実のようだった。


「オレは、君たちで好きなように報告してくれていいって思ってる」

「責任を押し付けるな」


 ルビが叱ると、オパールは肩をすくめた。


「なんなら、ここでオレを処分してくれていいんだぜ? 駆けつけたときには手遅れだったってことにすれば、君たちの経歴に傷が残ることもないだろ」

「ってか、そっちが本当の目的だったんじゃないですか、オパールさん」

「さあてな」


 なおもおどけるオパールを睨めば、私がどれだけ心配して怒っているのか伝わったようだ。

 オパールは苦笑を浮かべた。


「オパールさんは、なにに絶望したんですか? つまらなくなったからってヤケになったにしては、この状況はだいぶ大掛かりじゃないでしょうか?」


 私が指摘すると、彼は指先で通信機を切るように指示してきた。

 ルビと私はそれに対して顔を見合わせ、頷き合うと術を展開させた。雑音を増やす術だ。


「一応、聞き取りにくくはしましたよ。通信をいきなり切ったら、それはそれで怪しまれてしまうんで」

「君は本当に器用だな」

「褒めてもなにも出ませんよ」

「特殊強襲部隊が君を欲しがるわけだ」


 オパールが悲しげに笑う。どうしてそんな顔をするのだろう。


「オパールさんは、私を保護管理課に引き留めたかったんですか?」

「ああ、そうだ。君の家族からも、頼まれていたし」

「頼まれていた、って?」


 ウチの家族と知り合いだったとは驚きである。


「つまるところ、危険な部署に回されないように、ってことだ」

「んー、この部署も結構物騒だと思うんですけど」


 死と隣り合わせという部分は大差ない気がするが。年に一人以上は怪我で戦線離脱をするような部署であるし、鉱物人形が破壊されたという話もよく聞く。安全な場所ではない。


「それでも、見知らぬ土地に送られることはないだろう?」

「そういうものですかね?」


 遺体を回収できるかと言ったら、保護管理課のほうが回収率は高いと思った。特殊強襲部隊はわりと初手で肉塊になるので、回収できても一部分であることが多い。

 オパールは困ったような顔をした。


「訊かれても、オレに親がいるわけではないから、なにを案じていたのか想像しても掴めないぞ」

「む、それはそうかもしれませんが」


 私が納得すると、ルビが私の肩をトントンと軽く叩く。


「目の届く場所にいて欲しかったんだろう。保護管理課の任務はほぼ日帰りだが、特殊強襲部隊は数日間は任務で出ているし、任務地も協会のごく一部しか聞かされないくらいだからな」

「この仕事に決めたときから、危険なことは伝えていたはずなんですけど」


 そうなると、むしろ精霊使いになることを勧められなかったことが不思議である。私には適性があるので、それでもよかったはずなのに。

 首を傾げていると、ため息をつきながらオパールが継ぐ。


「だが、協会は君や家族の都合に構っていられない。君の能力を買って、特殊強襲部隊の任務に貸し出したんだな」

「そのあたりのこと、私、ごっそり記憶から抜け落ちてるみたいなんですが……えっと、その話、そもそもオパールさんの絶望と関係してくる話なんですか?」

「まあ、最後まで聞いておけ」

「はい」


 納得できないが、話は最後まで聞こう。

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