第12話 あのときの記憶がないらしい

「――オパール。彼女はあのときの記憶がないらしい」

「……おいおい、そりゃあないだろ」


 黙って見守っていたルビが言うと、オパールが脱力した。その隙に私は逃げてルビのもとに行く。ルビは戻ってきた私をぎゅっと抱きしめると、彼自身の後ろに下がるように手放した。


「あのときって、なんの話です?」

「君が俺を襲った日の話、だ」

「んんん?」


 ――襲った? 私が、ルビを?


「なんか違和感があったんだ。君は、特殊強襲部隊で俺と組んでいた日々の記憶を喪失している」

「まさか」

「そうとしか考えられない」


 そう説明されたが、思い出せないものは思い出せない。


「――で、俺たちの事情はさておき、仕事に戻っていいか、オパール。これ以上の被害を出したら始末書ものだ」

「すでにオレは始末書ものだし、廃棄処分になるはずだが」


 ゆっくりと立ち上がり、服についた埃を払いながらオパールが告げる。


「案ずるな。俺がフォローする。彼女と戦場を駆けたいんだろ?」


 ルビが励ますと、オパールはふっと口元を緩める。そして空を仰いで大声で笑った。


「なんだ。餞のつもりか?」


 笑顔のオパールはギラギラしている。闘争心が戻ってきたようだ。


「俺たちが待機番の日を狙って行動したのはそういうことだろう?」

「ふん……意外と君は察しがいいんだな」


 携えている剣の柄に手を添えて、いつでも出られると行動で示す。オパールの癖だ。

 長めの前髪を耳に掛けながら、ルビが笑う。その仕草は仕事を始めるときのルビの癖。


「俺たちの仕事ぶりを眺めるだけでいいなら、無理に誘わないが」

「え。私、勝算ないって割と真剣に思っているんですけど」


 勝手に話が進んでいるので、私は挙手する。

 ルビは私を見て意外そうな顔をした。


「俺は君がいるなら勝てると確信している。特殊強襲部隊にいた実力を見せてやるよ」

「――オレの前で惚気られるのは不愉快だから、協力はする」

「惚気てない……」


 なにはともあれ、そろそろ魔物の意識をくらますのも限界である。反撃に出なければ。


「それで、どうするんだ?」


 オパールが促す。そこにいるのは、好戦的な男。元パートナーの戦場の顔を見て、私は安心した。

 ルビがニヤッと笑う。この高揚している表情、確かに見たことがあるのに、どこでだったのか思い出せない。保護管理課での仕事ではないことは間違いないのに。

 私たちはルビの作戦に耳を傾ける。ただの時間稼ぎではなく、確実に仕留めていくことを目的とした内容に、私とオパールは驚きつつ頷いた。


「……やれそうか?」

「やりましょう」

「だな」


 私たちは掃討作戦を実行に移す。

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