第11話 疑問に感じなかったのか?
「君に言っておくが、オレは修復で彼女から供給を受けたことはないぞ。オレが供給したことならあるが」
「む……」
「妬くなよ。昔の話だし。君はオレより刺激的なこと、してるんだろ?」
「私たち、清い関係のままですけど」
オパールがからかってくる。私たちの事情をある程度知っていながらこういう話をふっかけてくるあたり、実は見た目よりも損傷が激しいのかもしれない。
――使う魔鉱石を増やしておこう。
「……いやいや、夫婦なんだろう? もう気にすることないじゃないか。なんのためにオレが――」
「その話はするな」
「……ん?」
――なんのために?
オパールの言葉をルビが遮った。語気が荒い。
止められたオパールは目を瞬かせる。新雪のように真っ白な睫毛がバサバサと動いた。
「――なあ、ルビ。君はどうして隠すんだ? 結婚するまでは黙っておいたほうが互いのためだったろうけれど、もう違うだろ。互いにいつ死ぬかわからないんだから、話しておいたほうがいい」
「いいんだよ。この身体が砕け散るそのときまで、俺はそうするって誓ってるんだ」
「押せば抱けるぞ?」
「しねえよ」
ルビがむすっと不機嫌そうな顔をした。
私はオパールが落とした左腕を拾い上げる。肘から先が外れたようだ。表面の輝きが失せている。ただ外れただけではなさそうなのは、この強力な瘴気に晒されている影響もあるのだろう。
「えっと……その話、抱かれるのは私ですか?」
「そうなるね」
「私、たぶん、抱く側ですよ?」
腕を出せと指示してオパールに残っている腕をマントから出してもらう。拾った腕をそこにくっつけて魔鉱石とともにテーピングをする。
慣れているくらいになめらかに処置を施していくが、この部署の戦闘でここまでの怪我を見たことがないことに気づく。どこで私はこの処置をしたのだろう。
「それは、そうだろうな」
私の発言に、ルビが神妙な様子で頷いた。
「……ルビさん?」
「いや、深い意味はない」
――それ、深い意味あるやつ……
そうは思っても探りを入れていられる余裕はない。私は術を発動させた。
「ぐっ」
「ちょっと熱が出ますけど、通常の反応なので我慢ですよ」
オパールが唸ったので私は患部をさする。熱い。術としては順調な傾向だ。
「――なあ、君」
「はい?」
オパールの瞳の輝きが揺れる。同名の宝石と同じように複数の色が混ざる瞳は、私を誘惑するように妖しく光った。
「オレがどうして怪我をしたのか疑問に感じなかったのか?」
どうして怪我をしたのか。
腕を落とすほどとは珍しい。私と組んでいたときにこれほど損傷が激しい怪我をしたことはなかったと思う。
私が首を傾げると、オパールは薄く笑って唇を動かす。
「護送中の精霊使いが魔物に変わったのが真実なのか疑問に思わなかったのか?」
続けて問いかけてくる。
オパールが嘘をつかないといけない理由がわからないし、この瘴気の濃さを思うに彼の報告は真だと判断できる。
私が言葉を返そうと口を開いたタイミングで、オパールは自身の血まみれのマントを持ち上げた。
「この返り血がオレの相棒のものであるのは確定だとして、その死がどうしてもたらされたのか考えなかったのか?」
「――え?」
頭の中がぐるぐるする。
なにか見落としている気がする。
その正体を掴みかけたとき、私はオパールに押し倒されていた。
「オパールさん?」
「オパールっ!」
「おっと、動いてくれるなよ? 彼女を魔物にしたくないならな」
ルビが動くのを躊躇った。
オパールはテーピングを解いて、自分の左腕の感触を確認している。
「さすがだな。直るのが早えわ」
「……裏切ったんですか?」
「君からはそう見えるか?」
オパールの問いに私は首を横に振る。
「でも、この状況はそう判断されます」
「まあそうだろうな」
「どうして」
「人間の味方をしているのも退屈になってきたから、かな。君と一緒にいられるわけでもないし」
そう返事をして、転がっていた私を起こすなり抱きしめてきた。
「オパールさん?」
どういうことだろう。この抱擁は私をルビに渡さないようにするためのものとは違う気がする。私を壊そうというものでもない。
困惑していると、オパールに頬擦りされる。大型の飼い犬が戯れてきているみたいな感じだ。親愛の行為。
「……君さ。こうなる前にオレと逃げてくれたらよかったんだよ。特殊強襲部隊に行かず、オレのパートナーでいてくれたら……君からの求婚も、オレ、すごく嬉しかったのに」
「……ええ? ちょっと待ってください。私、よくわかんない」
――オパールさんは私を好いていたってこと? だとしても、話が繋がらないんだけど?
私はフラれたのではなかったのか。勢いで求婚した、あの時に。
オパールの腰に手を回してトントンと叩く。離してもらいたいのに逃れられない。本気を出せば脱出できるが、そうなるとオパールを壊すことになる。それは嫌だ。
私がもぞもぞしていると、ルビが唇を動かす。
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