第5話 飛んで7日目

それから何事もなく7日目まで進んだ。

凸待ち配信で7日目までかかるのは異例、いや偉業ではないか。

そのように感じる今日この頃。


『…暇』


コメ欄は普通に地獄だし、現在みなクラは単調に家や商店の内装を作るくらいで何も新しいことが起きない。

そして最後の一軒の内装が完成したところで一度、腕を頭の上に伸ばす。

凝り固まった肩がパキポキと音を鳴らす。

そのまま首を回すとこれまた同じく音が鳴る。


『ん〜、何しよ』


最初に建てた塔の上から街を眺める。

中世ヨーロッパ風の建造物にそれを取り囲む荘厳そうごんな壁。

塔の真正面に伸びる道の先には凱旋門のような大きな門が聳え立つ。

しかし、何かが足りない。この場所を他とは違うものにするための何か1ピースが。


『ん〜、なんかな〜。なんか足りないな。…………あ、ドーム状のガラス張り作ろ』


壁の上から始まるようにガラスを置いていく。

そして、塔の上がドームの中心となるようにガラスを置いていくことにした。

さながら魔法の障壁だ。


:4ね4ね4ね4ね4ね4ね4ね4ね4ね4ね4ね4ね4ね4ね4ね4ね4ね4ね4ね4ね4ね4ね4ね4ね4ね4ね4ね4ね4ね4ね4ね4ね4ね4ね4ね4ね4ね4ね4ね4ね4ね4ね4ね4ね4ね

:つまんね。やめたほうがいいよ

:消えろ消えろ消えろ消えろ消えろ消えろ消えろ消えろ消えろ消えろ消えろ消えろ消えろ消えろ消えろ消えろ消えろ消えろ消えろ消えろ消えろ消えろ消えろ消えろ消えろ消えろ消えろ消えろ消えろ消えろ

:メッセージ見るか、電話出てください《WORLDs公式》


終わっているコメ欄に公式からの連絡が流れ込む。

3日目あたりから定期的に流れてきたコメント。たまに他ライバーのコメントもあり少しコメントで炎上していた。今までは無視してきたが一週間目だし、従ってみる。

電源を落としていたスマホを見ると不在着信が100件ほど溜まっていた。

メッセージアプリも見ると、公式や同期、先輩からのメッセージの通知がMAXまで溜まっていた。


『ごめんね。一旦ミュートする』


配信の音をミュートして、今現在鳴り響いている電話に出る。


「もしもs『なんでもっと早く出ないんですか!?』……いやぁ、電源落としていて」


『普通一週間寝ずにやってれば電話くらい入れますよ!!てか、一週間もやるとか聞いてないんですけど!?』


「いやぁ、凸待ちなのに誰も来ないからですからかn『それ嘘ですよね?』…どういうことでしょうか?」


『他のライバーから聞きましたよ!あなた凸待ちのくせに通話には居なければ、他のライバーからの連絡も全部切ってるみたいじゃないですか!!しかもスマホの方は電源切ってるし』


「あ、バレました?」


『本当にそういうのやめてくださいよ!!』


「いやぁ、俺みたいな炎上中のいつ燃え移るかわからないライバーと通話するくらいならこちらから切って飛び火しないようにした配慮なんですけどね…ははは」


『なんでなんですか!?凸待ちになりませんよ!!』


「すみませんね。でも俺ができる最大の配慮だったんですけど…」


『そういうの配慮って言いませんから。本当に。私たちWORLDs全員、あなたのこと責めてません。だからちゃんと凸待ちしてください。お願いします』


「わかりましたぁ」


『あとちゃんと寝てください』


「いやぁ、一週間くらいならなんの問題もないんですけど……」


『ダメです。どんなにあなたでもちゃんと寝ないと普通に死にますからね!?』


「俺死ななかったけど…」


『あぁもう、ああいえばこう言いますね!?だから、ちゃんと凸待ち配信して終わったら速攻寝てください。わかりましたね!?』


マネージャーはそう言うと電話を切った。

ううむ、バレていたとは。まぁ、他ライバーが伝えたりしていたのだろう。

コメント欄にもいたし。

そう考えて、意識を切り替える。配信のミュートを解除する。


『運営さんからお小言を言われましてね。さっさと終わらせろだそうです。なので、次の凸が来たら終わりますかね』


コメ欄は変わらず暴言だらけだが、ところどころに俺の体をいたわるコメントが寄せられていた。


『んじゃ、まぁ。ママでも呼ぶか。…配信を見てるだろうわるつママ。来ていいよ』


絶対あの人は見ている。前に話したときそう言っていた。

「我が子の配信をラジオ代わりに聴きながら作業してるんだよね〜」と。

それなら今の言葉も聞こえているだろう。


配信者やゲームプレイヤー、その他諸々の御用達通話アプリ『デスコード』にわるつママがオンラインになったと言う表示が出た。

そしてその数秒後、デスコードから電話が来た。


『はい。では自己紹介を』


『みんな〜、元気?大人気イラストレーター兼このバカ息子のママ。美団わるつで〜す!!』


『自称大人気イラストレーターのわるつママです』


『おい、我が子よ。あれだけ私に仕事しろとかちゃんと生活習慣しっかりしろとか言うくせに、我が子のほうがちゃんとしてないじゃないか!これはどう言うことなんだよ!?』


『誰も来なかったのが悪い』


『な訳ないでしょ。どうせ我が子のことなんだからお断りでもしてんじゃないの?』


『な訳あるかい!ママでも言ってはいけないことがあるんだよなぁ』


『それで。凸待ちとか言いつつ何か会話デッキとかないの?』


『え!?そんなもの作るの!?』


『普通、来た人に質問とかするんじゃないの?』


『マジで?誰も来ないと思っていたからなんも用意してないんだけど』


『マジで!?』


『うん。マジか〜じゃあもういいや。ママバイバイ。俺このあと運営から寝ろって言われてるから』


『あそう。ちゃんと寝なさい』


『はいは〜い』


そうママが言うと通話は切れた。

そして先ほど言った通り、この後は配信を切るだけ。

普段通り暴言が吐かれているコメ欄に安心感を抱きつつ締めの言葉を言う。


『はいじゃあ、おわりまーす。お疲れっした』


コメ欄の返しも何も見ずに配信を終わるとそのままパソコンの電源を切る。

時計は大体深夜0時を指しており完璧に一週間ぶっ通しで配信していたことになる。

そんなことを考えながら俺はベットに横になった。

一週間分の疲労が溜まっているせいか泥のように眠ってしまった。




まぁ俺が寝ている間、SNSではめっちゃ炎上してたらしい。

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毎度燃えるVTuber生活 神織紫苑 @tukinohebi

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