第4話 3日目、何もなし


『凸待ち配信、3日目が始まりました』


そう宣言するのは凸待ち配信のくせに3日経っても誰も来ないこの私。

現在時刻は朝の9時。

実際3日目とするには9時間ほど遅いが、何も見どころのない9時間は使う意味もない。9時間はずっと内装を作っていただけ。


『皆さん、ようやくです。ようやく城下町の建設に本腰を入れられます』


ゲーム内ではキャラが内装の9割が完成しているであろう建物から出てくる。

目の前は元々森であったのが嘘のような平原が広がっている。


『作ってみたいものが山ほどあるので早速作業に取り掛かりましょうか』




『まず作っていくのはこの街のシンボル。いや、シンボル自体は私の背後にでっかく聳え立ってますけど…。噴水がある中央広場みたいなものを作っていきます』


場所は塔から少し離れた地点。

この噴水のある広場と塔を半径とした円状に城下町を作っていきたいと思っている。

噴水自体はそう難しい仕組みもないので数十分で完成した。


『それじゃあ、次は最低限の舗装に手を出そうかな』


塔が石造りなので見栄え的にも石レンガがいいはず。と思い、俺は倉庫から石レンガを10スタックほど用意する。

このゲームでは1つの素材でも1スタックずつしか持てない。

ここでは一スタックは64個となっている。

つまり合計640個も石レンガを持っていることになる。このプレイヤーのどこにそんなものを仕舞っているのかは不明だが…まあ、ファンタジーに現実は持ち込んではいけないよな。こいつ、素手で木を採れる奴だし…


道の舗装は案外早く終わった。

噴水のある広場から塔までと反対側に同じ距離分石レンガで舗装した。


『噴水のある広場を中心とする円形の要塞にするつもりなので、余った石レンガで外壁の形を取ろうと思います』


外壁の位置を決めておけば建物の位置を決めやすいと思う。

義務的な言葉を画面の向こうへかける。

平日の9時10時あたりなので誰もいない。

それでも企業勢としてはやばい。

俺は社長の情けというか優しい社長のおかげというかで留まってられるので何かしら恩返しをいないといけないのだが、これだと何もできない。

というか、さっさとやめた方がいいのかもしれない。

まあ、辞めようものならアンチどもが自分の手柄のように振る舞うのが目に見えてるのでしないが。


『あー、やばいな。頭回んなくなってきた』


頬を叩き気合いを入れ直してゲーム画面に向かう。


『はい。それじゃあ、一応外枠を作り終えたので、街の建物に戻りましょうか』


それから夜あたりまで誰も来ず、建築を進めた。

無言配信にならないように注意しながら話題を出して話を1人で続けてはいるが、どう足掻いても独り言になってしまうので精神に来る。


:死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね

:消えろ消えろ消えろ消えろ消えろ消えろ消えろ消えろ消えろ消えろ消えろ消えろ消えろ消えろ消えろ消えろ消えろ消えろ消えろ消えろ消えろ消えろ消えろ消えろ消えろ消えろ消えろ消えろ

:何でやめないんですか?

:早く辞めるのが身のためですよ

:僕の推しと関わったらぶち殺してやる

:企業勢なのに低評価の方が多い配信はここですか〜?wwwwwwwwwwwwwww

:面白くないですね、やめろ


夜になると仕事を終えた社会人や学生、ニートがアンチや荒らしとしてやってくる。

コメント欄は荒れに荒れ、まともなコメントが埋もれてしまう。

そんな中、彼の目に一つのコメントに目が留まる。


:仕事もひと段落したか見に来たけど大丈夫?〈美団わるつ@絵描き〉


『あ、わるつママじゃん。おつおつ』


美団わるつ。俺のガワを作ってくてたイラストレーター。

Vの界隈ではガワの作者のことをパパ、ママと呼ぶことが多い。

この人は結構な有名イラストレーターなので現在進行形で作業中のはずだが、その合間を縫って見に来てくれたらしい。

こんな俺に見合わないいいママだ。


『大丈夫だ、問題ない。それより、わるつママの方が〆切とか忙しくないの?』


:そんなの我が子を見に来るのに不要よ〈美団わるつ@絵描き〉


『うわー、なんかまともなこと言い出したよ、この人。ヤニカス酒カスパチカスの役満イラストレーターなのに』


:最近は締切で吸ってないし飲んでないわ!!〈美団わるつ@絵描き〉


『パチってはいるのか…』


:あたぼうよ〈美団わるつ@絵描き〉


『さいですか。じゃあ、こんなパチカスは置いといて作業に戻りますか』


まともすぎて逆にこのコメ欄だと浮いているわるつママのコメントに返信しながら作業を進める。

周りが暴言しかないからね。仕方がないね。


:凸待ちだけどママが行こうか?


『あっ、いらないですぅ。一応箱内に留めようとしてるので』


:そう…


『それじゃあ、仕事に戻りな。俺も作業に戻るんで』


わるつママを諭し、コメ欄にコメントがないことを確認すると俺は話半分でしていた作業に再度取り掛かる。


『改めて考えると、もっと大きくなるかもなのに壁の当たりを取るとか最後で良かったな』


まだ建物も多くは建っておらず街の規模もわからないのに何故先に壁の当たりを作ったのか。これがわからない。


『……壊すか』


俺は今まで建てた壁の当たりを壊すことにした。

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