白の境に舞う金烏。

おくとりょう

第1話 朝は頭に銀の匙

「よぉ、少年。朝だよ!」


 白いレースのカーテンがはためいて、朝の風がふわりと香る。少し冷たく静かな、どこか寂しい匂い。

 余計に起きたくなくなって、僕はぎゅっと布団を顔まで被る。


「……おいおい。あたしが来たってのにまだ寝てんの?」

 草原の朝露を集めたみたいな、静かにとおる少しハスキーな声。そっと見上げると、お姉さんは明るい朝日を背に立っていた。彼女はポニーテールを愉しげに揺らし、バッと布団と枕を剥ぎ取った。

「――あいてっ」

 勢い余って、ベッドから落ちる僕。

 だけど、僕の頭は硬い床にぶつからず、スーッとすり抜けそのまま階下に落ちた。あっという間に、そこは居間。朝食中の机の上。気づくと僕は、コンフレークの器に頭を突っ込み、漫画みたいな一点倒立をしていた。


「ア、アハハ。おはよう、父さん」


 ひっくり返ったままの姿で僕は作り笑い浮かべる。いつも通り、ピシッとした白いワイシャツの父さん。僕の顔越しに牛乳を注ぐと、黙ってすくって口へと運ぶ。まるで、無様な息子の姿なんて見えていないように。


「まぁ、ホントに見えてないからね」

 いつの間にか、机の側に立っていたお姉さん。寂しそうな声のあとに、食器の音が小さく居間に響いた。

 彼女の気持ちは誰に向けたものなのだろう。

 一人で黙々と朝食をとる父さんのスプーンを頭に感じながら、僕はぼんやり考えた。触れないはずの朝の風に、彼女の髪がそよそよ揺れる。


「……そんなことより、少年よ。

 今日も未練を探そうか!」

 白い歯をニィっと見せて、お姉さんは僕の手をぎゅっと掴んだ。

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