第28話 エピローグ

「ねぇおじさま。1つ聞いていいかな?」

「なんだいルカ。おいちゃんに話せることなら教えてあげるよ。」


 私はベッドに横たわり、赤竜おじさまに問いかけた。


「どうして私はこの国から出てはいけなかったの?」


 その疑問に対する回答は、図書館で得られなかった。


「それはなルカ。お前が要石だからだよ。」

「要石?」


「そう。お前は、そこに存在しているだけで土地に神竜様の加護を与えることができるのさ。」


 加護を? 与える?


「その土地に、神竜様の加護の影響を強く及ぼせる、ということさ。」

「地脈が通じてなくても?」


「そうだ。あの魔族は本来、もっと凶悪な高位の存在だった。だがお前がこの土地に居たから、奴の力は不完全なままだったんだ。神竜様の加護はそれだけで魔族を弱らせるからね。」

「じゃあ私がドラクルに一度でも戻っていたら?」

「奴は完全な復活を果たし、この国を荒らしていただろうね――300年前のように。今回はそうなる前に叩けて良かったよ。」


 そっか、アレより強かったら、さすがに手に負えなかったなー。



 最後の一撃にすべての魔力を込めたので、私はまた魔力欠乏を起こしていた。


 でもおじさまが言うには「今度のは、回復するまでそんなに時間がかからないから大丈夫だよ。」ということで、安静に過ごすことになったのだ。



「ルカさん。お身体の加減はいかがですか?」


 ベッドの傍らでレイスくんが語り掛けてくる。


 あの、相変わらず手を握るの、やめてもらっていいですかね……他の人もいるのに。


「私は大丈夫! ちょっと打ち身とか擦り傷があるだけで、体力と魔力が回復すれば元通りだよ!」


 レイスくんににっこり笑ってあげる。


 私の腕に巻かれた包帯を、痛々しそうに見るレイスくんを見ると、申し訳なくなってしまうけれど。


「また、守り切れず、申し訳ありません。」

「何いってるのー! 今回はみんな精いっぱい頑張ったじゃん! その結果は大勝利! なんだよ!」


 レイスくんは少し寂し気に微笑えみ、「そうですね。」と返してくれた。


「アリーナの怪我も大したことなかったし! あの巫女のローブ、案外すごいものだったんだね!」

「そうだぞー? ルカは嫌がるが、あのローブを着て戦っていたらそんな傷を作ることもなかったんだぞー?」


 ほー。ザ・高性能。


 でもそのローブのおかげでアリーナが無事だったんだから、けっかおーらいだな!



 レイスくんと同じように、私の怪我を痛々しそうに見ていたニックくんに声をかける。


「ねぇニックくん。神官長はあの後どうなったの?」

「ん、ああ……逮捕されたよ。誘拐事件の主犯として裁かれるんじゃねーかな。」

「そっか……救ってあげられなかったね。」


 ニックくんも、なんともいえない苦い表情でうつむいた。


 親しかったニックくんは、私以上に思うところがあるのだろう。




「みなさん、ルカ様は怪我人なのですから、大挙して押し寄せてこないでください。」


 私と比べると、ほとんど怪我のないアリーナが冷たく言い放った。


「アリーナこそ、今日くらいは安静にしてなよー!」

「いえ、私はルカ様の侍女ですので、こうして控えている方が回復いたします。」


 どういう身体してるの?!




******


 馬車が学園に到着し、扉が開く。


 “アルルカ様”をレイスくんがエスコートするのはいままでと同じ。


「ルカ、手を出しな。」


 何故か私はニックくんにエスコートされるようになっていた。


「ねぇニックくん。君、毎朝エスコートしにこなくてもいいんだよ?!」

「俺が好きでやってるんだから、いいんだよ。」


 ニックくんが私に触るたびに、レイスくんの機嫌が悪くなるんだよな……。


「ねぇ、もしかして――」

「んー?」

「レイスくんに対する嫌がらせで、わざとやってる?」

「あ、ばれた?」


 こっそりこちらの様子を伺っていたレイスくんの後頭部に、特大の青筋が見えた。気がする。




 私の学園生活は、まだまだはじまったばかりだ。


 次はどんな出会いが、私を待っているのだろうか。

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竜の巫女は拳で語る みつまめ つぼみ @mitsumame_tsubomi

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