第23話 図書館で調べよう!
「じゃあ、手分けして探してみようかー!」
「俺も手伝うのかよ……。」
「ここに来たってことは、手伝ってくれる気だったんでしょ?」
ニックくんの目を見てニカッと笑ってやる。ニックくんはこれで結構気のいい奴だ。だいぶわかってきた。
なんだか赤くなったニックくんは「俺はあっち行ってるからな!」と、奥の方に行ってしまった。
「レイスくん! 私はあの辺の本を漁ってくるねー!」
吹き抜け上部の本を指さして、私はふよふよと飛んで行った。
300年前の魔族がどうやって現れたのかな。神竜様の加護が強いこの王国に、魔族なんてそうそう出てこられないはずなんだけど。
歴史書をぺらぺらとめくっていく。
ふと、1枚の絵が目に留まった。魔竜の血石と聖竜の血石?
地脈を乱すことができる魔竜の血石と、それを正すことができる聖竜の血石――2対の宝石か。
300年前も、地脈が乱れて魔族が現れたってこと?
この2つの宝石、今はどこにあるんだろう……。
「おーいルカ! なんか見つかったかー?」
「ああうん、今読んでるー。」
私はニックくんの声に生返事を返す。
魔竜の血石は……王都の神殿に封印されたと。なるほど。
聖竜の血石は――
「ルカー。お前さー。」
もう、今読んでるところなのに。邪魔しないで欲しいなぁ。
「……自分がスカート履いてるの、忘れてないか?」
……。
ふと下を見ると、真下からニックくんが私を見上げていた。
「うーん、きみが上を見なければいいだけじゃないかなー?」
私は目を本に戻して読み進める。
「おまえ……恥じらいってものがないのかよ……」
だから、君が見なければいいだけなんだって。
――聖竜の血石は、竜の巫女が代々受け継いでる?
私は胸元のペンダントをじっと見る。――これが? これを使えば地脈を元に戻せるってことかな?
でも、今は地脈はもう元に戻ってるんだよね。じゃあこれ、何に使うんだろう?
ぺらぺらとページを読み進めていく。
「……なにをしてるんだ? ニコラ・ケール子爵子息。」
「おまえはこっちくんな。いいところなんだから。」
んー? レイスくんの声が下から聞こえる。
本が見つかったのかな?
声のする方に目をやると、私の真下から上を見上げるニックくんとレイスくんに目が合った。
………………。
「うわあああああああ! ちょっと! こっちみちゃだめだってば!」
私は慌ててスカートを抑えたのだけど、その拍子に本を落としてしまった。「あ。」
――分厚い歴史書は、鼻の下を伸ばしていたニックくんの顔面に綺麗に突き刺さっていた。
「レディのスカートを覗くとか信じられない!」
「いやお前、注意しても気にしてなかったじゃんか……。」
「レイスくんもだよ?! なんで見上げちゃうかな?」
「いや、こいつが上を見上げてたから、なにを見てるのかと……。」
顔を真っ赤にしながら怒る私に、平謝りするレイスくんと悪びれないニックくん。
ニックくん、全然悪いと思ってないな……?
「レイスくん。見たことは全部記憶から消去するように!」
ズビシッ! とレイスくんの鼻っ面に指を突き出す。覗きなんて、ナイトのやることじゃないんじゃないかな?!
「安心しろルカ。俺はきちんと記憶に刻み込んだから。」
「ニックくんは女性に嫌われたいらしいね?」
冷たい視線で睨んでおく。
「ルカはもう少し色気のある下着を履いてもいいんじゃないか?」
「余計なお世話ですー!」
まったくもう!
******
「――で、この本によると。300年前は聖地を穢すことで神竜様の加護を弱めたらしいのよね。」
「聖地って?」
ニックくんの問いにあわせて、私は本にある地図を指し示す。
「ここ。地脈の重なっている箇所。――たぶんこれ、王都の大神殿の位置じゃないかな。」
地脈が穢れも運ぶのなら、ここを穢すことで王国の広範囲に穢れを及ぼすことができるはず。
――もしかして、今回も?
「穢れってのがなんなのかはわかんないのか?」
「その辺の記述はなかったんだよね……。他に収穫はあった?」
私はレイスくんの顔を見る。ニックくんは見てあげない。
「それなら、竜騎士団に関する書物にこんなのがありましたよ。」
レイスくんがページを開いてよこしてくれた。
えーと――「竜の巫女と竜騎士が力を合わせて魔族を封じた。」
あとは……「騎士たちは浄化の炎の力を借りた。」?
浄化の炎――火竜の息吹、か。でもこれ、口から火炎を吹く魔法だしなぁ……赤竜おじさまなら何か知ってるのかな。
「そろそろ暗くなってきました。一度帰りましょう。」
レイスくんが提案してきた。確かに、閉館時間が近づいてるね。
「じゃあ続きはまた明日、だね。帰ろうか!」
「え、朝から図書館かよ。」
「ニックくんは手伝ってくれないの?」
じっと目を見る。手伝ってくれるものだと思ってたんだけど、ダメかな?
「……わかった。わかりました手伝います。」
ニックくんは降参ポーズをしながら目をそらした。
最初からそう言えばいいのに。
帰り道。私とレイスくんは並んで歩いて帰っていた。
「少しだけ、何かが見えてきそうだね。」
「そうですね。早くあなたの体調が万全になるとよいのですが。」
てくてくと歩きながら、少しの沈黙――ふと見上げると、星が綺麗だった。
「綺麗だねー! アリーナにも見せてあげたいくらい。」
「今日は空気が澄んでいますからね。」
てくてくてく。
「ねぇレイスくん。」
「はい、なんですかルカさん。」
「……見た?」
「何をですか?」
「……スカートの中。」
レイスくんの顔が真っ赤に染まった。
「いえ! 見てません! 忘れました!」
見たんだ……。
「ちゃんと忘れてくださいね!」
思わず真っ赤になってそっぽを向いてしまった。
明日はちゃんと下も履いて来ようと固く誓ったのだった。
その日、アリーナは夜遅くになっても帰ってこなかった。
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