第21話 わたしが一肌脱ぎましょう!
「で、どこの屋敷を燃やせばいいんだい?」
話を聞いた赤竜おじさまは開口一番のたまった。いつもの赤竜おじさまの顔なのに殺気がすごい……。
「赤竜おじさま、燃やしちゃだめです!」
「あのような男、消し炭にして構わないと思いますが。」
アリーナ、おじさまを煽るのはやめて……どうしてそんなに殺意が高いの。
「貴重な真相につながる手がかりを得られるかもしれないのに! どうしてけんもほろろなの?!」
レイスくんはしかめっ面が張り付いて顔から離れない。不機嫌オブ不機嫌である。
アリーナが不本意そうに話し始めた。
「ルカ様、最初に提示された条件ですが、あれを許可することはできません。それはご理解いただけていますか?」
「えーと、3日間私を貸せ、とそのあと落とす、だっけ?」
アリーナが頷く。
「あれは“ルカ様を3日間恋人としてよこせば、自分に惚れさせてみせる”、と宣言したのです。」
え……えええええ????
ニックくん、すごい自信家だな?! ていうか恋人?!
「伴侶でも、ましてや婚約者ですらない者にそのようなことを許せるはずがないでしょう。非常識にも程があるというものです。」
あー、なるほど、そういう意味だったのか……それはアリーナ激おこでもしょうがない、かな……。でも。
「ニックくんは、たぶん信用できる人だよ?」
「……なぜ、そう思うのです?」
レイスくんが堅い口を開いた。ずーっとだんまりだったのに。
「んーと、なんとなく? 悪い人じゃないよ。」
はぁ、とアリーナの特大クソデカため息が炸裂した。
「ルカ様は男性に騙され弄ばれるタイプでしたか……。」
「どういう意味?! だいぶ失礼じゃないかな?!」
「実際に現在進行形で騙されている方のお言葉とは思えませんね。」
「騙されてないって! もう少しニックくんを信用してあげて?」
「んで、おいちゃんは誰を炭屑にすればいいんかのぉ?」
「だから燃やしちゃダメだってば!」
ぎゃいぎゃいと話し合い(?)が進む中、レイスくんがぼそりと呟いた。
「ルカ様、どうしてそんなに彼に好意を持てるのですか。」
……好意? まぁ、好きか嫌いかで言えば「好き」かもしれないけれど。
「ニックくんは悪いやつじゃないよ。レイスくんとも友達になれると思うんだ、けど……。」
私がニックくんを擁護すればするほど、レイスくんの機嫌が悪くなる気がする。
なんでさー、貴重な情報源だよー?
それもこれも、ニックくんが挑発的な態度を繰り返したのがよくないんだな。今度ちゃんとお説教しておかないと。
「とーもーかーくー! 情報を得るためにはこちらも譲歩しないと話が進まないでしょ!」
「ルカ様を対価とするのは一切飲めませんので、譲歩しようがありません。」
あっさりアリーナに切って捨てられた。まー、私だってさすがに二人きりで逢瀬、とかは嫌だけど。
……あっ!
「ひらめいた!」
「余計なことをひらめかないでください。」
「余計なことってなに?!」
「読んで字のごとくです。」
と、とりつくしまがない……いやでも!
「つまり、二人きりにならなければギリギリ飲めるんじゃないかな?! つまり、レイスくん同伴で遊びに行くならオッケーにするとか!」
時が止まった。
どうやら私は時間停止魔法を使えたらしい。
「……ルカ様。」
「はい!」
アリーナが怖い。
「本気で言ってますか?」
「ほ、ほんきです……。だ、だって、レイスくんなら何があっても必ず守ってくれるもん!」
みんなの視線が一度私に、その後レイスくんに集まった。レイスくんは物凄い嫌そうな顔をしている。
はぁ、と本日2回目の特大クソデカため息が聞こえた。
「アレイスト様……お願いしても、よろしいでしょうか。」
レイスくんの眉間の皺がすごいことになってる……。そんなに嫌なのかな。
「アレイスト様?」
「私で……よろしければ。」
絞り出すようなレイスくんの返事が、力なく響いた。
赤竜おじさまが、レイスくんの肩を抱いて「すまんが、ああいう子なんだ。」と言っていた。
どういう意味ですかおじさま……。
******
「ねぇ、お父様。」
「なんだい?」
――カビの臭いが鼻を突き刺す。
明かりのない石畳の部屋の中に、鈴の音を転がすような女の子の声が木霊した。
「私、お友達が欲しいわ。」
「お友達かい? どんな子がいいんだい?」
ピチョン、と水の滴る音がした。地下水がどこからか漏れているのだろうか。
足元には、既に乾いて赤黒く変色した何かが広がっている。
「なんでもいってごらん? 私がお前の望みを裏切ったことがあったかい?」
耳の奥には、今までここに招いた“お友達”の声が、まだ残っている。
――なぜ。どうして。
――たすけて。
しばしの逡巡――
「とっても元気で、綺麗で――」
――少女の口が、にやりと歪む。
「真っ赤な瞳の、女の子がいいの!」
「……ああ、わかったよ。お前は安心して待っていなさい。」
とても愉しそうな「ええ、待ってるわ――」という声が闇の中に吸い込まれていった。
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