第12話 やっぱりわたしは無鉄砲?
レイスくんがおかしい。
あの日以来、レイスくんの糖分がさらに増したように感じる。
何かと私と行動を共にする時間が増えた。
アリーナに相談してみたが、にっこりと生暖かいまなざしを向けられただけで何も言ってくれない。なんなんだよ、言いたいことがあれば言えよー。
「おはようございますルカ様。」
「う、うん。おはようレイスくん。」
今日も朝のフェイスフラッシュが眩しい。なんとか微笑み返して食卓に向かう。
毎朝目潰しをくらう私の身にもなってほしいものである。
「ねぇレイスくん。今日は図書館じゃなくて大神殿の方に行ってみようと思うんだけど。」
「そうですか。ではそのように手配します。」
まだ私の魔力は回復していない。
学園の図書館で何か手掛かりを得られないか、と探してみたが、めぼしい情報は見つけられなかった。
もう一度王都の大神殿で礼拝してみれば、何かわかるかもしれない。
地脈の異常がどうなったのか、魔力を使えない今は知るすべもない。あの魔法は私が即席で編み上げたものなので、宮廷魔術師でも再現するのが難しいと言われてしまった。現場に居合わせてれば違っただろうけどね。
学園では魔力を使った実習もはじまっているが、今は免除してもらっている。「最上級の魔力持ち」と評価されていたのに実技は見学している私を、蔑むような視線が増えた。ような気がする。賄賂で張りぼての評価を買った子爵令嬢、とでも言われてるのかな。“アルルカ様”を非難する輩が居ないのがせめてもの救いか。
まぁ、今はしょうがない。実際魔力は空っぽだし。にしても、魔力の強さでもマウント合戦になってしまう文化は頂けないなぁ。少なくとも私には馴染めそうもない。
そんなクラスの中で針の筵状態の私を、さらに追い込む問題が1つ。レイスくんである。
なにかにつけて時間を取って一緒に行動してくれるのは嬉しいのだが、彼と一緒に歩いていると視線が痛いのだ。人気者の上級生に付きまとういけ好かない女、という噂が立っているとアリーナが教えてくれた。
近づいてくるのはレイスくんの方なんですけど?! と困惑したのだが、アリーナが言うには「こういう時は女性に非難が集まるものなんですよ。」とのことだった。実に理不尽である。
学園のどこにいても針の筵なので、私は大変気が滅入っていた。
思わずため息も出るというものである。
「ルカ様、なにか心配事でも?」
徒歩で神殿に向かう途中で、うっかりため息を漏らしてしまったらしい。
迎えに来たレイスくんと一緒に教室を出るときに視線が背中に突き刺さりまくり、ハリネズミになるかと思ったくらいだ。
「いやーなんでもないよー。」
アハハ、と乾いた笑いでお茶を濁す。今はそんな下らないことより、魔力の回復が先決だ。
後方には公爵の私兵が控えている。ドラクルの武官だと“アルルカ様”の護衛なので目立つのだ。目立つのはなるだけ避けたい。手遅れな気がしなくもないが。
レイスくんは物憂げに微笑みかけてくれる。
「私には遠慮など不要です。少しでもあなたの助けになれれば、と思っています。」
そんな顔をされてしまうと、こちらとしても心苦しい。「もう少し放っておいてくれる?」と言ってしまえば嫉妬は収まるかもしれないが、彼は「私を護衛する責務がある」と言ったのだ。
自分の役目が私を苦しめていると知ったとき、彼はどうするのだろうか。そんなしょうもない苦しみを与えたくはない。
結局、笑ってお茶を濁す事しか私にはできなかった。
もう少しで神殿が見える、というあたりで女性の悲鳴が聞こえた。裏路地の方だろうか。
付近の人々は戸惑っているようだが、レイスくんは私兵に指示を飛ばしていた。
「ルカ様。あなたはここに居てください。決して動かないで!」
そう言うと私兵と一緒に、悲鳴の聞こえた方へ走っていってしまった。
まぁここは大通りで人目も多いし、安全と言えば安全か。裏路地の方は明らかに治安が悪そうなので、私を同行させるのを控えたのだろう。
「だからって一人で置いてけぼりにされるのもなー。」
んー。とても心細い。路地裏の様子を伺いながら、じっと待ってみる。んー? 誰かいるな?
悲鳴の聞こえた道から数本外れた曲がり角から、ぐったりした女性を担いだ男が走っていくのが見えた。おいおいレイスくん、取り逃がしてるぞ。
「しょうがないなーもう!」
見てしまったものは見過ごせない。私は男に気づかれないように、そっと後を付けた。
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