第11話 俺はいつも風瓜のことだけ

第11話 俺はいつも風瓜のことだけ Part1

<山脈>


繁風は【蜻蛉枇杷カゲロウクワット】を追い、この地にたどり着いた。


蜻蛉枇杷カゲロウクワット】は洞窟の中へ入ろうとする。


「繁風!」


ヴォーテが背後から追いついてきた。


「ヴォーテ!」


煌明龍こうめいりゅうクレアー】が【蜻蛉枇杷カゲロウクワット】の正面に移動する。


「【クレアー】、攻撃しろ!」


【クレアー】がブレス攻撃をする。


しかし、【蜻蛉枇杷カゲロウクワット】は身をかわし、そのまま洞窟内部へ入り込んだ。


ガンッという鈍い音とともに入り口が閉められる。


「逃したか…」


着地して、モンスターをカードに戻す。


「随分大きな洞窟だな」


「もしかすると、どこか別に入れる場所があるかもしれない。

探してみよう」


「ああ」


**********


<洞窟>


「ここから入れそうだな」


しばらく歩いて、入り口を見つけることができた。

内部に足を踏み入れる二人。

暗い道が続く。


「ここが敵のアジトなら、明らかに我々を誘っている」


「ああ。

ここまで堂々と入り口を開けておくのはおかしい。

あからさまに罠だ」


「それでも行くしかない…」


ヴォーテはしばらく黙ると、再び話し始めた。


「繁風。

君が私と風瓜に話したこと…君と風瓜の出会いのこと…

全てを町の人に話した」


「そうか」


「賭けだったが、打ち明けて信用してもらう他ないと思った。

君は8年もの間、一人で抱えてきたというのに…。

私はいつも君達の足を引っ張ってばかりだ。

許してほしい」


「…許すもなにも、俺は怒っていない」


「…」


「風瓜の言った通りだ」


「え?」


「お前はいつも他人のために…。

思い返せば俺達が初めて会った時も、人への危害が加わることを少しでも避けるために、一刻も早く、あの場で俺を鎮めようとしていたんじゃないか?」


「…」


「お前を見ていて分かった。

俺はいつも風瓜のことだけだ」


「君は人のために七掌陣を倒しているじゃないか。

もう三体もだ」


「最初はそうだったかもしれない。

でも、風瓜が七掌陣の一体だと知った時、内心怖かった。

風瓜が七掌陣達と出会うことで、奴らの力に魅了され、人間達と、俺と敵対するようになるんじゃないかと」


「…」


「俺には家族がいない。

親の顔を見たこともない。

俺には風瓜しかいないんだ。

風瓜がいなくなれば、俺に家族はいなくなる。

そう思ってからは、とにかく七掌陣を倒していくことを急いだ。

気づけば人のためより、自分のために戦っていた」


「それだけ風瓜を愛している。

そのことは、君が誇れることではないのか?」


「…」


開闢ドーンが何をするつもりなのかは分からないが、七掌陣を集めることを放っておけば大惨事になる。

それだけは間違いないだろう。

奴らを倒して、風瓜も救おう」


「そうだな」


目の前に現れた巨大な扉を開ける。


**********


<研究施設>


「ここは…」


周囲の装置や電源等を見るに、何らかの研究を行なっている場だということは想像ができた。


「風瓜!」


風瓜が装置のなかに閉じ込められているのが見えた。


「兄ちゃん!」


「待っていたよ」


男が現れる。


「あんたは…」


舵掛かじか博士!」


その人物は五仕旗の生みの親である舵掛博士だった。


「なぜあなたが開闢ドーンのアジトに?」


「それは私が開闢ドーンを組織する者だからだ」


「!?」


「それでは七掌陣を集めさせているのは…」


「私だ」


「何だと!?

一体なぜそんなことを…」


「全ては一体のモンスターのためだ」


「モンスター?」


「ああ。

そのモンスターには、他のモンスターと大きく異なる点があった。

それを今からお見せしよう」


舵掛博士はカードを1枚取り出すと、モンスターを召喚した。


ローブを纏い、人の形をしたモンスターが現れる。


「これは…」


「ヤッホー!

やっと僕の出番か」


そのモンスターは話し始めた。


「そしてこれは、先ほど風瓜を運んできたくれたモンスター…」


蜻蛉枇杷カゲロウクワット】が召喚される。


「あっ!

もしかしてこれって?」


「ああ。君へのプレゼントだ」


「(プレゼントだと?)」


「(何だ?)」


「それじゃあ、遠慮なく~」


その瞬間、強風が起こった。

そのモンスターに【蜻蛉枇杷カゲロウクワット】が吸い込まれていく。

ゴクっと何かを飲むような音がすると、風は止んだ。


「これこそ、このモンスターの持つ能力。

他のモンスターを吸収し、自らの力を高める」


「!?」


「初めまして、僕は瞳彩アイリス!」


瞳彩アイリス…」


「他のモンスターを吸収するモンスターなど、聞いたことがない!」


「当然だ。

私も初めて瞳彩アイリスを見た時は驚いたよ」


「だよね? 僕すごいモンスターだからね!」


「まさか、そいつにより強大な力を取り込ませるために…」


「そう。

七掌陣を回収しているのだ」


「そして僕が最後の七掌陣なんだよ!」


「あいつが!」


「舵掛がつけた七掌陣って名前、気に入ってるんだー。

選ばれた七体ってことでしょ?

まぁ、僕が一番上で、その下にザコが六匹いるんだけどさ」


「だが七掌陣のうち五体は、既に私と繁風の手にある」


「だから何? 馬鹿なの?」


「なに?」


「そのために、こいつを使うんだよ!」


瞳彩アイリスが風瓜に近づく。


「うわぁ、何?」


「まさか…やめろ!」


「だよね?」


「分かったようだな。

果地繁風、ヴォーテ・ライニング。

風瓜を瞳彩アイリスに吸収させたくなければ、君達の持つ5枚の七掌陣を渡してもらおうか」


「くっ…」


「やることが汚いぞ!」


「舵掛博士。

五仕旗を生み出し、人とモンスターを繋いだあんたが、何故こんなことを?」


舵掛は語り始めた。


瞳彩アイリスに吸収させるため、私は強い悪意を持つモンスターを探す必要があった。

私がカードを開発し、五仕旗を作り上げた真の理由は七掌陣を探すためだ」


「どういうことだ?」


「私は五仕旗によって以前よりも戦いの機会を増やすことで、人やモンスターに対して強い憎しみや反感を抱くモンスターを炙り出せるかもしれないと考えた。

私の予想通り、多くのモンスターが人間との絆を持ち、無心で五仕旗に熱中する陰で、瞳彩アイリスに食わせるに相応しい悪意を持つモンスターは存在した。

それこそが六体の七掌陣」


「五仕旗は七掌陣を探すための手段…」


「私は開闢ドーンを裏で操り、各地から七掌陣を集めさせた。しかし瞳彩アイリスに与えようとしたその時、六体の七掌陣は残された力を使い逃亡したのだ」


「(あの夜、風瓜はこいつに食われそうになったところを逃げてきたのか…)」


「方々に散った七掌陣を回収するのは容易なことではない。

幸運だったのは、七掌陣が逃亡した時のショックで回復に時間を要していたこと。

奴らが逃亡した時のショックで、記憶を失い、さらに、意識を取り戻すまでに月日がかかるであろうことは予測がついた。

姿を消したのは8年も前だが、奴らが人を襲うようになったのはここ数年の間だ。

最も果地風瓜。

君の弟は人間に姿を変えることで他の七掌陣とは異なり、深い眠りにつくことは避けられたようだが」


「…」


「ただ、モンスターである七掌陣が起動スターターを使用できることは意外だった。

起動スターターは人間にしか使えない。

起動スターターの持つ威力調整機能は、モンスターによる攻撃を敏感に察知するため、モンスターを拒むような設計がされている。

通常のモンスターであれば、近づくことはできても、身につけ使用することなどは不可能だ。

しかし、七掌陣はそれを無視し、五仕旗による勝負で村や町を襲い始めた。

私の手を離れた七掌陣は、さらに悪意を増加させ、力を高めていたのだ」


「七掌陣の悪意がさらに増したのは、記憶をなくしていても、あんたに捕らえられていたことを微かに覚えていたからじゃないのか?

その執念が起動スターターの制限を突き破るほどの力を、奴らに与えた」


「そうかもしれないな。

結果として、我々が見つけ出すまでもなく君達が五仕旗で奴らを打ち負かし、七掌陣を私の下に運んできたくれたわけだ。

探す手間が省けたことは感謝する」


「あんたはそんな危険なモンスターを世に放ったっていうのか。

表向きはカードを開発し、人とモンスターの共存に貢献した人物として賞賛を受けながら!」


「そんなことはどうでもいい。

七掌陣を渡すのか渡さないのか、さぁ、選んでもらおう!」


「繁風。

私の答えは決まっている。

おそらく、君も同じだろう」


繁風とヴォーテがカードを取り出す。


「だが、一つだけ条件がある。

俺達は5枚、せめて風瓜だけは返してもらおう。

それでいいなら、カードを差し出す」


「は?

立場分かってるの?

そんなの…」


「いいだろう」


「舵掛!」


「まぁ待て瞳彩アイリス

ここで風瓜を傷つけるようなことがあれば、余計に彼らはカードを渡すのを拒むだろう」


「そんなの風瓜こいつを食べた後で、あいつらを倒せばいいだけの話だろう?」


「それもそうだが。

ここで5枚をお前の中に吸収し、力をつけてから挑んだ方が勝利の可能性は高まる。

彼らはたった二人で五体もの七掌陣を集めた、相当な実力者だ。

油断してはならない」


「ふ~ん。

わかったよ」


「さて、渡してもらおうか」


二人がカードを投げ渡す。


風瓜は解放された。

繁風に駆け寄る。


「兄ちゃん!

ごめん。俺のために…兄ちゃん達が頑張って倒したのに…」


「気にするな」


「ヴォーテも…」


「君がこんな目にあったのも、もとを辿れば私のせい。

当然のことをしたまでだ」


舵掛が口を挟む。


「七掌陣のカードには五仕旗での勝負に敗北した際、ロックがかかるように仕掛けをしておいた。

今、その封を切る」


「楽しみ~!」


舵掛がカードをセットすると装置が大きな音を立てて、モンスターが召喚された。

これまで繁風とヴォーテが相手をしてきた七掌陣が眠った状態でそこにいた。


「8年越しのスペシャルディナー!

あっ、ランチ?…モーニング?

よく分かんないけど、いただきま~す!」


先と同じ要領で瞳彩アイリスがモンスターを食べ始めた。


「はぁ~、結構食べたな。

体の底から力が湧いてくる!」


5枚のカードが消え、瞳彩アイリスのカードに統合される。


瞳彩アイリスのカードを見つめる舵掛。


「(ほぅ、これは…)」


「さて、次はお前だ…風瓜!」


「そうはさせない。

お前の相手は俺だ」


繁風が前に出る。


「兄ちゃん、待って!

俺も戦う。

七掌陣として何か役に立てることがあるかも」


「風瓜!」


風瓜がカードになり、繁風のデッキに入る。


「さっさと始めようよ!」


「くっ…。

五仕旗…」


「Primal Generation!」

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