第7話 戦いの始まりの大会

 戦いに置いて俺が重要視していることはただ一つ、冷静に物事を見極めることが出来るかという事だけだ。どんなに強い相手であっても必ず弱点は存在すると思うし、そこを突くことが出来れば勝てないまでも逃げることが出来るだろう。俺は戦いにおいて助言を求められるとそう答えていた。たいていの人はそれで納得してくれていたのだが、俺自身はそんな強い相手に出会ったことが無いわけであるし、今まで一度も逃げ出したいと思ったことは無かったのだ。


 王国で開催された魔導士の世界一を決める大会に招待されたのは俺の他にも数名いるようなのだが、基本的には自主的に参加を決めた者達が多いようだ。その中には俺と一緒に魔物退治をしていたものもいたのだが、俺がこの大会に参加する事を知った瞬間に顔色が一気に曇ってしまっていたのだ。申し訳ないという思いは多少ありつつも、俺も自分より強いやつがいるのかという事を知りたくて参加しているので仕方ないのだ。もっとも、俺より強い人間なんているわけはないのだがね。

 俺の見立てでは、この大会は純粋に強い魔導士を決めるというものではなく、王国が行っている戦争の力になるようなものを探す大会なのではないかと思うのだ。俺は王国にもその他の国にも力を貸すつもりも無いので誘われても断るだけなのだが、それに気付いているものはあの中にどれくらいいるのだろうか。戦いを見ている感じでは王国の狙いに気付いているものなどいないようにも見えるのだ。

 招待選手という事で俺は予選の参加を免除されて本選からの登場となるわけではあるのだが、予選会の様子を見ていると様々な戦い方があるのだと改めて知ることが出来たのだった。どんな状況でも自分が有利になるように一対一になるように立ち回るものもいれば、複数人間をまとめて相手にする戦い方を好むものもいる。中には最後の二人になるまで共闘するものもいたりしたのだが、そんな二人は最後まで残ることが出来ずに途中で脱落していったのだった。

「どうですか。イシダさんから見て満足出来そうな相手はいますか?」

「そうですね。ここから見てる限りだと、正直に言って誰も楽しめそうな感じはしないですね。これだったら俺が参加する意味も無かったような気がしますよ」

「そうでしょうね。ですが、これはあくまでも予選会ですから。本番はきっとイシダさんも満足出来るような相手がいると思いますよ」

 予選会は参加者を振るい落とすためだけのものだという事なのだろうが、ハッキリ言ってあの程度の連中が相手であれば全員でかかってこられても負ける気はしない。むしろ、本選でも俺と戦えるような相手がいるのかどうかすら心配になるくらいであった。

「戦争中だって言うのに帝国の魔導士も招待するなんて頭がいかれてるのか。それとも、この程度の連中で戦争に勝てるなんて思ってたりするのかね」

「案外王国なんてそんなもんかもしれないよ。一般戦闘兵は圧倒的な数を誇る王国ではあるけどさ、魔導士に関してはそこまで充実しているってわけでもないからね。今まではその数で魔導士を抑えることも出来ていたわけだけど、ここから先はそうもいかなくなるとわかってるんじゃないかな。だからこそ魔導士を世界中から集めてるって事だろ」

「そう言う風に見ることも出来るというわけか。でもよ、集められたからって魔導士が全員王国につくわけでもないだろ。俺もお前も所属は帝国になっているわけだし、これを見てる多くの魔導士は王国につく事なんて無いわけだろ」

「そうなんだよな。それがわからないんだよ。私もお前も帝国を裏切ることなんて出来ないわけだし、魔導士を集めたいだけなら私達を招待する必要なんてないんだからね。むしろ、私達に見せることがマイナスでしかないと思うんだ。それなのに、こんなにたくさんの魔導士を招待するなんて意味が分からないよな」

「一つ気になるんだが、俺らの他にも招待されている奴は多いって事だよな。それってさ、帝国の中にいる魔導士が減って前線を維持出来なくなるって可能性はないのか?」

「それは全くもって心配無いね。私達が招待されてそれに応じたことの見返りとして、今まで王国側が維持していた前線を自分たちの領土まで引き下げたんだからね。私達帝国にとっては今までと何も変わってないから気付かないのかもしれないけど、首都陥落の危機もあった連邦にとっては渡りに船だったと思うよ。魔導士の多い連邦でもそれぞれが独立していて王国側の物量に押し切られていたからね」

「それはわかるけどよ、帝国が付き合う必要なんて無いと思うんだけどな」

「そんなことも無いさ、連邦が崩壊するという事は帝国が崩壊する可能性もあるわけだからね。連邦が王国に飲み込まれたとして、そこにいた魔導士たちが帝国に襲い掛かってくる可能性だってあるわけだからさ。王国の兵力量に連邦の魔導士が加わったとしたら、さすがに帝国でも前線を維持するのは難しい話になると思うよ。今の帝国に王国と連邦を相手にするだけの力はあるとは言い切れないからね」

 俺の後ろで見ていたカップルだと思っていた二人は帝国側の魔導士のようだ。たぶん、俺と同じでこの大会に招待されたのだとは思うが、俺と違って腕試しに来たというわけではないみたいだ。男も女もそれなりに強そうではあるのだが、俺よりは強いと思えなかった。王国より強い魔導士が多いと思っていた帝国もそこまで強いわけではないのかもしれない。


「イシダさんが気になる相手は見つからなかったようですね」

 晩餐会で俺は案内人の男にそう言われたのだが、実際にそう思っていたので反論することは出来なかった。

「ですが、安心していただいて結構ですよ。本選ではイシダさんが満足出来るような相手が必ずいますからね」

 案内人の不敵な笑みは気になっていたのだが、その言葉からあふれ出る自信は俺の心を揺さぶるには十分なモノであった。

「そこまで自信たっぷりに言われると期待しちゃうかもな」

 俺は今までにない気持ちの高ぶりを感じていたのだが、頭の片隅では満足出来ることは無いだろうという思いも生まれているのであった。

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